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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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命を預かる

―ロキ 教会 夕方―

 目的の物を得て、私は綴から腕を引っこ抜く。その時のぐしゃりという音に、心地良さを覚える。


「あ゛あ゛……」


 彼は目を見開き、その場に崩れ落ちてうずくまる。


「ちょっと切っただけなのに、大袈裟ですね」

「奪った、の゛か……私から」


 苦悶に満ちた表情で、こちらを睨み付けた。


「奪っただなんて人聞きの悪い。一部をお預かりするだけですよ、貴方の為にね」


 私の手にあるのは、本来目に見えることのない命。私が、神という立場にあるからこそ出来ることだ。


(半分もあれば十分ですよね。半分で三百年もあるとは……流石は、逸材です)


 綴を見つけたのは、もう何十年も前だ。城でパーティーに客人として招かれた私は、子供の泣き声を聞いた。それを辿っていくと、暗い部屋で一人泣く十歳の綴と出会った。ぼそぼそと独り言を漏らし、気味悪かった。強くなりたいとうるさいから、特別に力を貸してあげた。

 あの頃は、私に敬意のある態度で接してくれていたのに今ではこれだ。私に対しても、偽るようになった。


「げほ、げほっ! 勝手なことを、するな……」

「やれやれ、私にも敬意とやらを持って接してくれていたあの頃が愛おしいですよ。というか、私の方が付き合いが長いはずなのに、N.N.にだけ素を見せるのは何故です? 正直、嫉妬します」


 勿論、嘘であるけれど。好かれようが嫌われようが、興味ない。


「思ってもないことを……そ、んなの私が聞きたいくらいだ。あいつの前では、何故か……げほっ! 気持ちが緩んでしまう。最初の頃は意識するようにしていたが、疲れるだけだった。それに、あいつはすぐに見抜く。面倒だ。それだけのことだ」

「嗚呼、良かった。私達、付き合い長いですもんね。私のことをよく理解してくれていて助かります」


 綴が、N.N.二対してそう感じる理由は何となくだが分かる。きっと、重ねているのだろう。昔も今も変わらず憧れ続ける兄の姿に。N.N.は文字通りの完璧だ、人間の尺度的に見れば。綴の中で、同じ完璧という枠組みにあるのは宝生 颯だけ。


(憎しみと愛は紙一重。貴方はずっと憎んでいるつもりなのでしょうが、自分でも気付かない内に結局は追い求めている。それが分からないから、所詮は傀儡なんですよ)


 それこそが彼の弱さだ。その歪さに、私は強く惹かれた。だからこそ、失いたくない。勿体ない。創造主様が目をつけなかった理由もあるが、能力的には相当に惜しい。私がここに堕とされた身でなければ、進言することも出来たかもしれない。


「さて……」


 あまり感傷に浸っている場合ではない。預かった物は、彼に届かない場所に置いておく必要があった。私が指を鳴らすと、すぐに黒猫が現れる。


「みゃ~」


 気だるげにそう一度鳴くと、じっと私の手に握られているものを見る。


「これを武蔵国へ持っていって下さい。あくまで保険ですが、大切に」


 私がそう告げると、黒猫は瞬く間に姿を少年へと変えた。


(わざわざその姿にならなくても、コミュニケーション取れるのに。結構、気に入ってるんですかね。最近、創って貰えたこの姿が。最近、すぐに人間体になりたがる。まぁ、動物はそういうものなんですかね。周りにそんなのばかりいるから、自然と興味を持ってしまうのかも)


 黒猫の変化に興味を覚えたが、それを追求している場合ではない。


「いつまでだよ」

「さぁ……それは分かりません。全てが上手くいけば、保険は保険のまま。貴方はただ預かり続けるだけです」

「あぁ? おいおい、俺をいつまで酷使するつもりだ?」

「その為に、私が作ったんですよ。やれやれ……もういいですね。分かったら行って下さい、事が起これば貴方にも分かるはずですから。明確に。やり方は、貴方に任せます。信じていますから」

「お前から言われてなけりゃ、心に沁みるほど嬉しい言葉だよ。は~分かりましたよ……人使い荒い奴だ、相変わらず」


 そう不貞腐れたように言い捨てて、ひったくるように命を取って、黒猫は霧のように姿を消した。


「猫でしょうに……ねぇ?」


 隣で苦しみ悶える綴に問いかけてみるも、返答はなかった。

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