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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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腕は胸を貫く

―屋敷内庭園 夕方―

 話を終えた後、父上は屋敷を後にした。その頃には、気絶していた門番達も目を覚ましていた。混乱する彼らに、父上に代わって説明し事なきを得た。


(まさか、父上が来るとは……それに、あんな話を聞けるなんて思いもしなかった)


 黄昏に染まる空を見上げながら、父上との話の内容を振り返る。


(父上は、子供の頃からやけに大人びていたんだな。十六夜どうこう言っていたけど、一番子供っぽさがないのは父上だよな)


「はぁ……」


(父上は、最初何に対しても無気力だったんだよな。それでも、守るものが出来て……変わった。僕は守るものは、ずっと傍にあったはずなのに)


 僕は恵まれた環境にあったはずなのに、どうして僕はこんなにも駄目駄目なのかと思う。父上が同じ人間という土台にあったからこそ、その辛さは余計に増す。


(どうして、こんなにも違うんだろう)


 生まれ持ったものが違うから? 育った環境が違うから? 性格が違うから? 分からない。何も分からない。悩みは積み重なり、何も考える様子もなく、風にゆったりと運ばれていく雲が羨ましく感じた。


***


―綴 教会 夕方―

「――たそがれちゃってどうしたんですか? また、お兄さんのことを考えてるんです?」


 窓越しに鳥のカラスを眺めていると、背後から茶化すようなロキの声が聞こえた。まるで、人が常々あの男のことを考えているかのような言いぶりだ。


「その言い方は気に食わないな、ロキ」

「否定しないってことは、そうなんですね?」

「気配を感じるのだ、すぐ近くに。あいつが……この国に来ている?」

「凄いですね、センサーみたい。会いに行きたいですか?」


 ロキが憎たらしい笑みを浮かべて、私の顔を覗き込む。


「それは……私を馬鹿にしているのか? この教会から出られない体にしたのは、どこの誰だ?」

「また否定しませんでしたね。別に、会わせてあげるとは一言も言っていませんがね。フフ……確かに、教会から出られない体にしたのは私ですが、それを選んだのも貴方自身でしょう?」

「それしか選択肢がなかったからだ。ずっと前から思っていたことだが、お前は神だろう? 本来、あいつよりも上の立場ではないか。何故、あいつの命令を厳守する?」


 人々が知らぬ間に、裏から国を世界を支配していった組織の頂点に立つのがN.N.という男。鳥族のカラスを中心に、様々な種族が配下として、表向き忠誠を誓っている。その配下にはこの世界の仕組みを知っている者も多くいる。私は人間だが、この世界の外から来た神のロキによって真実を知った。

 所詮、N.N.はこの世界の枠組みに囚われた存在だ。そんな彼に従う理由は、未だ分からなかった。


「子分は、親分の言うことを守らないといけませんからねぇ。私が神であるとかどうとかは、些細な問題ですよ。私は無理やり従わされている訳でもありませんし、その辺の筋は通さないと」

「あぁ、そうかい」


 出会った頃から、その飄々さは変わらない。理解しようとすること自体が間違っているのかもしれない。


「えぇ。それより、貴方だって子分なんですからね。一度犯した過ちに目を瞑って貰って、挙句手まで借りて……七番目さん」

「ふん」


 入りたくて入った訳ではない、ほぼ拾われる形だった。国を追われる身には、匿ってくれる存在は非常に頼りになった。それから関係がずるずると続いている。

 N.N.も掴み所のない奴だ。こっちは利用されてやるつもりはない。どれだけ頭が良かろうが、奴の思うようにはなりたくない。ただ最終目標が似通っていただけのこと。処分などされてたまるものか。このような屈辱は、もう味わいたくない。


「まぁ、頑張って下さい。舞台まで用意して貰ったんですし。あ~でも、万が一の可能性もありますし……ちょっと小細工をしておきましょう。こっちを向いて下さい」

「何?」


 向いてくれと頼んできたというのに、術を使って私の体を強制的に自分自身の方向へと向ける。抗えぬ強い力。老体という枷はあるが、その差は圧倒的だ。


「ちょっと痛いかもしれませんが、貴方の為ですから。ほら、良薬は何とやら……ふふ、薬でも何でもありませんが」


 ロキは、意味ありげにそう呟いた。その刹那、右手が素早く私の胸部へと伸びて――貫いた。

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