魅力は秘密から
―学校 朝―
恐る恐る、僕は尋ねる。
「この目が……変ってこと?」
すると、リアムは首を大きく横に振った。
「違うよ! 確かにあまり見ないけど……でも、変じゃない! 綺麗なんだ! だからこそ知りたい! その目がどうなっているのかっ! 右目は黄色で、左目は黒色! ねっねっ、その目の色は本物!?」
リアムは、両手を僕の頬に置いた。そして、僕の顔を覗き込み、僕の右目をまじまじと見つめてくる。男性からこんなに見つめられても、恐怖しか感じない。それに、彼はちょっと常人とは何か違うヤバさを感じる。
「本物だよ……」
そう、この目はまごうことなき本物。英国に来る前、僕はとある悍ましい技術の後遺症でこうなってしまった。ただ、この目の色になってもそれを知らない者達に指摘されることはなかった。
説明は難しいが、簡単に言えば僕の目の色が黄色くなったことが常識になったのだ。
「わぁ……最高だ! よければ、是非友達になって欲しい! いや、友達になろう! なる運命だよ! そう、俺が貴方を見つけたその日から、友達になることは決まっていたんだ!」
新入生代表の挨拶をしていた時には感じることはなかった、彼の秘めたる狂気。僕は、最悪な人に目をつけられてしまったのかもしれない。
やはり、何かしら対策をしておくべきだった。頭のネジがいくつか吹き飛んでいそうな人物に、絡まれてしまう可能性を一切考えていなかった。
「あ……わ、分かったから、離れてくれないか」
ここで友達になることを拒否なんてすれば、彼に何をされるか分からない。
「あぁ! ごめんね! つい、興奮してしまったよ。そっかぁ~本物なんだね! まぁ、俺のいた舞台からでも目立つくらいの黄色なんて、カラコンじゃ無理だよね! ねぇ、隣いいかな?」
リアムは無邪気な笑みを、僕に向ける。嫌ですなんて言えない。放っておいてくれとも言えない。言う度胸もない。冷たくあしらえば、きっと彼は深く傷付く。彼は、まるで子供の大人だ。
「……あぁ、いいよ」
「やった!」
彼は大きく万歳をして、本当に嬉しそうだ。僕なんかと友達になっても、何もないのに。勉強も得意でないし、新入生代表挨拶をするくらいの優等生であるリアムには、いい影響を与えるような奴でもないのに。
その後、リアムは机の上を飛び越えて隣の席へと着いた。
「あ、そうだ。貴方の名前は? 俺ばっかり、一方的に話しちゃった」
「タミ……だよ」
「タミか! いい名だね! それで、貴方はどこから来たの?」
「日本、から」
「日本!? あんな遠い所から来たんだ、凄い! でも、日本って島の名前で、その中には沢山の国があるって聞いたことがあるよ。どの国も、確か……江戸時代から続いてて歴史が超長いんだよね! で、どの国から来たの?」
「え、えっと……詳しいんだね、こっちのこと」
(流石にそこまで言うのは、ちょっとな……それに日本の年号とか知ってるみたいだし)
「秘密」
僕は人差し指を自身の唇に手を当てて、言えないということアピールをした。
「えぇーっ! 酷いなぁ……」
リアムは、がっくりと肩を落とした。本当に落ち込んでいる。申し訳ないけれど、好奇心のままに行動している彼なら、僕の正体に気付いてしまうかもしれない。余計な情報は与えるべきではないだろう。
「アハハ……少しくらい秘密があった方が、人間魅力的に見えたりするだろう? 僕も、少しくらい魅力的になってみたいのさ」
「なるほど……いいね! でも、貴方は十分魅力的だよ」
「そ、それはどうも……」
リアムは、その後もどんどん僕のことについて聞いてきた。所々秘密にしながら、彼の疑問を解決していった。最初は彼が怖かったが、話続けている間に楽しさを覚えた。話も弾んだ。
それはきっと、彼が魅力的な人間だからだ。僕みたいな奴とは違う。彼のペースで話が進むから、楽しかったのだ。