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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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世は乱世

―颯 武蔵国 数十年前―

 仲良しごっこ。そういう体で始まった私達の関係は、積み重なった日常の中で気が付けば――。


「かぁーっこいいっ! 流石、お兄ちゃん!」

「ふん……これくらい朝飯前だ」


 綴は、私の仕立てた着物を嬉しそうに見つめている。みすぼらしい格好で、それ以外に服も持っていないのか汚れていくのが気になった。だから、とりあえず仕立ててみたのだ。それを、想像以上に気に入ってくれた。


「もう着ていい!?」


 目を輝かせながら、待ち切れない様子で言う。普段は子供らしさが微塵もないが、私といる時にはその姿を見せるようになっていた。


「着方は分かるのか?」

「うん! 着付けの練習は、いっぱいした!」

「そうか。なら、着てみろ」

「わーいっ!」


 そう言うと、慣れた手つきで着付けを始める。華麗な手さばきだ。恐らく、綴の立場を考えるとその練習は自分自身の為のものではなく、他の誰かを着付けさせる為のものだったのだろう。

 そして、あっという間に着付けを終えると、綴はその場で手を広げてくるりと回った。


「着心地はどうか? 肌は痛くないか?」

「最っ高! 全然痛くない! それに、すっごく動きやすい! 手も……足も! こんなに動かせる!」


 殴る動作と蹴る動作を何度も繰り返し、着物の心地を堪能しているようだった。まさか、ここまで喜んで貰えるとは。朝飯前に思い立って作ったのだが、もうこれでいいか。満足しているのなら。


「それはそうだ。運動がしやすいように作ってある。これで、私と共に鍛錬が出来る」

「……え?」

「世は乱世。城の中とて安心出来ぬ。加えて、私達の立場は狙われやすい。己の身くらい守れなくては情けない。呪術なんぞに頼らなくとも、己自身に宿る力を伸ばして、その身を守るんだ」

「でも、僕が守るのはお兄ちゃんで――」


 僕のことなんてどうでもいい、これだけ一緒にいれば次に言おうとしていることが分かった。言い切る前に、私は首を持って壁に押し付けた。


「まだそんなことを言っているのか。私を舐めるな。自分の身を守れない奴に、他人が守れるはずがないだろう。お前は、お前で強くなれ。私は、私で強くなる」


 綴と過ごす中で、ようやく生きる意味を見つけられた。それは、私が父のやり方を正し、国の腐敗をとめるという夢。それ即ち、王になるということ。王になり、弟のような者を一人残らず救い出す。命は、誰であろうと無駄にしてはならない。


「お兄……ちゃん」

「国を守る為、城を守る為、民を守る為、使用人達を守る為、お前を守る為……私は、王となる。それと……お前の長い寿命は宝。みすみす手放すような真似な二度とするな。分かったか」


 私は手を離し、崩れ落ちた綴を見つめる。


「……うん」


 綴は、すぐに顔を上げると儚く微笑んだ。

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