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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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仲良しごっこ

―颯 武蔵国 数十年前―

 宝生 綴――突如として現れ、弟を自称する者。加えて、今日から専属使用人であるという。それにしては、みすぼらしい格好でひ弱そうである。


「信じられると思うか? そんなことが。父はどこへ行った。何故、私はここで寝ている。私は血を吐いて倒れたはず。痛みもない。ここで、お前は何を見た。教えろ」

「え……えっと……」


 私が詰め寄ると、綴の目からついに堪えていた涙が零れ落ちた。


「――颯よ、怯えるでない。その子は、紛れもなくお前の弟。まぁ、腹違いであるがな」


 気が付けば、父が気配もなくベットに腰掛けていた。その手には、私の刀が握られている。


「な……!」

「甘いわ。その程度の実力で、このわしを殺そうとするなど。どうだったか? 弟の呪術の力は。内臓がぐちゃぐちゃになった気分はどうだったか? 心配せずとも、内臓はしっかり綴が治しておるぞ。ハハハハ!」


 あの激痛、それは内臓が滅茶苦茶にされてしまったことによるものだったのだと知る。しかし、あれだけのことをするとなると、代償は重い。父は笑ったが、それらの事実は何一つ面白いものではなかった。


「呪術!? あんなものを、まだ使っているのか!」

「あんなもの? 呪術は、我が国の発展の歴史そのもの。それ放棄するということは、今までを否定するということ。不敬であるぞ。のぉ? 綴」

「は、はい……」


 綴は、袖を握り締めて俯いた。


「呪術の使用者は、命を削る! それが、どれだけのことか分かっているのか!? 綴、お前はそのことを知っていて呪術を使ったのか!?」

「分かってますよ、お兄様。だけど……命が人より長ければ、大したことじゃないですよ。だから、気にしないで下さい」


 そう言って、綴は頭を上げる。その顔には、子供の純粋な笑顔が浮かんでいた。命の儚さを知っていれば、こんな表情は普通出来ない。十歳くらいにもなれば、知っていそうなものなのに――その疑問は、すぐに解決することになる。


「何?」

「僕は……人より数百倍寿命が長いんです。だから、呪術の代償程度ではなんてことないんです」


 人間より、寿命が長い生物はいくらかいる。けれど、綴はそれらの生物の特徴には何一つ当てはまっていない。どこからどうみてもただの人間だった。


「ククク……お前に次いで、よく出来た息子ぞ。兄弟として仲良くするように。それが、我が国の更なる発展へと繋がる。共に寄り添い、励んでいくのだ。あぁ、そうだ。一応言っておくが、綴が呪術を使ったのはわしの命令だ。こんなくだらんことで、仲違いするようなことがないように。さて、わしは忙しい。お前ら如きに、十分も時間を取ってやったことに感謝することだ」


 それだけ満足げに一方的に言い残すと、父は透明になって跡形もなく姿をくらませた。


(如きだと? 本当に、こんな奴が父親なのか? 実の子供にも、容赦なく呪術を使い使わせる。信じたくない。信じたくないが……血の繋がりは消せない)


「あ、あの……」


 私がいなくなった跡を睨み付けていると、気まずそうに綴が声をかけた。父も去ったというのに、そのおどおどとした調子に無性に苛立ちを覚えた。


「こんなくだらぬことを言わせるな、私達は兄弟だろう。敬語など不要。この国に、敬語を使う文化は未だにない。これから先はどうなるかは知らぬ。が、とにかくそのよそよそしい言い方を続けるのなら、私はお前を認めぬ」

「で、でも……僕は……」

「仲良しごっこの一つも出来ないのか」


 父の望む通りにしなければ、私はともかく綴の方がどうなってしまうか分からない。事実関係はどうであれ、とりあえず歩み寄らなければ何も始まらない。それに、興味もあった。兄弟というものに。

 

「出来ないのだな」


 しかし返答はなく、どうしようもないと思った私は部屋を出ようとした。その時――。


「ぼ、僕も行くっ!」


 綴は慌てた様子で駆け寄ると、私の左手を掴んで、真っ赤な顔で見つめるのだった。

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