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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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現れた弟

―颯 武蔵国 数十年前―

 紫月から話を聞いて、それにまつわる話を独自に調べた後、私は父に詰め寄った。思えば、これが父にした初めての直接的な反抗だったかもしれない。


「父よ、今まで首にした講師達を手にかけたのは何故だ」


 刀を持ち、父の部屋に押しかけてすぐにそう問うた。子供ながらに、恐怖を与えるならこれが効果的だと思ったからだ。しかし、そんな思いとは裏腹に父は椅子にゆったりと腰掛けたまま、不敵な笑みを浮かべた。


「なるほど、お前が熱心に何かをしていると思えば……そういうことか。安心しろ、わしは逃げも隠れもせん。理由は簡単。内部を知る者を、途中で外に出せば何があるか分からん。ただ、それだけのこと。役立たずであった上に、綻びそのものになられたら困るからな」

「潔い」


 そして、私は父に斬りかかった。躊躇や後悔はそこにはなかった。既に決めていたことだから。ここで、父を殺してから自害することを。

 父が死ねば、国は混乱するだろう。それに乗じて、他国が攻め入ってくるだろう。私は、後世で悪として名を残して憎まれるだろう。行き着く先は、地獄。そこまで見えていても、私はその行動を選択した。


(父の毒は完全に抜かなければ……この国には、父の思想に傾倒している者が多過ぎる。その全てを排除するのは、時間がかかる。かといって、放置すれば毒が全体に回る。腐り切っている。このような王があってはならない。私は、ここで……!)


 父の首元に刃が届こうとした瞬間、体に今までにないほどの激痛を覚えた。父上に何かされたのだろうか、しかしその引き裂くような痛みは内部からあった。


「くっ! 何を……」


 後は、刀を横に持っていくだけ。この体が引き裂かれようと、私はこの手をとめるつもりはない。怪我なく、父を殺せるとは思っていない。仮にも、この国の王なのだから。


「お前に、わしは殺せぬ。たとえ、その刃で首を斬ろうとの。まぁ、このたとえ話はお前に成せるようなことではない。未熟者めが――」


 その言葉の直後、私は血を吐いた。それからの記憶はない。次に目が覚めた時は、自室のベットの上だった。


「……お兄様」


 視界に入ったのは、見知らぬ少年の顔だった。その者は、私の顔を見るなり安心した様子で微笑んだ。


「誰だ、お前は」


 私は起き上がり、少年の姿を観察する。女子のように腰まで伸ばした髪に、ボロボロの古い着物。見た所、十歳くらいだろうか。私のことを兄と呼んだが、弟などいない。


「んと、宝生 綴です……お父様の命により、本日よりお兄様の専属使用人となりました。あの……僕は、お兄様のことは知っていました。でも、お兄様は僕のことなんて知らないですよね。えっと、受け入れて貰えなくてもいいです。でも、お兄様の傍にいることが僕の使命なので……ん~、えっとぉ……」


 誰かに覚えさせられた言葉だろうか、言わされている感が強かった。仕舞いには、言葉が出てこなくなったようで一人で慌てていた。


「うるさい」


 それを聞いているのが面倒になった私がそう制すると、綴はその目に涙を溜めていった。

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