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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十一章 家族
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恐悦至極

―ダイニングルーム 夕方―

 こんな穏やかな笑顔を、僕に向けて貰える日が来るなんて――夢のようだった。


「どうした? 先ほどから、私が笑う度に驚いた表情を浮かべているが」

「え、あぁ、その……珍しいなぁと感じまして。いつも、父上は僕に対しては硬い表情を……」


 顔に出てしまっていたようだ。致し方なく、僕は素直に答える。すると、父上は悲しそうに俯いた。


「そうか……お前に、そのように感じさせてしまっていたのだな。私は、何一つとして成長出来ていなかった。同じ過ちを繰り返していたのだな。私は……」


 目の前にいるのは、本当に僕の知っている父上なのだろうか。そう感じてしまうくらい、力ない表情だった。自信は微塵もなく、威厳はどこにあるのやら。とても弱々しく、触れたら壊れてしまうのではと思った。

 今日は見たことのないものを見せられたり、感じたりする日なのだ。病に倒れた時も、いかなる危機にもその威厳を崩したことなどなかったのに。何か、父上の心に影を落とす相当な出来事があったとしか思えない。


「父上?」

「すまない。こんなことを、お前の前で言っても仕方がないというのに」

「何か悩み事でもあるのですか? 僕でお力になれるかは分かりませんが、話せるようなら是非話して下さい。吐き出せば、少しは楽になるかもしれません」


 父上の苦しむ姿を、こんな形で見たくはない。僕みたいな奴に出来るのは話を聞くことぐらいだが、それで父上の抱える負担を減らせるならそうしたい。


「良いのか……? ならば、ここは甘えさせて貰おう。実を言うと、誰にでも言えるようなことではなくてな。しかし、いずれ家族の長になるお前になら話しても問題ないだろう。私達一族の抱える問題を知っておくことは、非常に重要だ」


 顔を上げると、父上はいつもの厳しい表情に戻っていた。


「はい。それで、父上の心が少しでも救われるというのなら」

「……嗚呼、感謝する」

「はっ、はい!」


 嬉しかった。これまでの人生の中で、父上に感謝されたことがあっただろうか。いや、ない。まだ何もしていないのに、天にも昇る心地――恐悦至極だった。


「……どうした? 目に涙が浮かんできているが」

「い、いえ。お気になさらず、どうぞお話を……」


 父上に感謝の気持ちを与えられて、その感情を抑えられるはずもない。


「そうか? なら良いが」


 不思議そうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに険しい表情へと戻る。そして、口を開き語り始めた。


「私が長らく抱えている悩み、それは弟……綴のことだ――」

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