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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十章 いつか手を取り合えたなら
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門の向こうには

―屋敷前 夕方―

 あれから数日が経った。太平の龍が言った通り、朝日が昇る頃には全てが元通りになっていた。背中付近にナイフを刺されたことで負った傷も、魔法で焼かれたり凍らされたりした腕も。

 次の日からは学校にも通い、日常へと溶け込んだ。しかし、溶け込めなかった部分がある。例えば、食事。あれほど拒んだ生肉も、受け入れて食すようになった。


(得る為に失う……か)


 彼の言葉を何度も噛み砕くことで、ようやく現実が見えてきた。変わりたい、けれども僕には出来ない。変わろうとすること自体が傲慢で、盲目だった。奇跡すら願う余裕はないという現実から、目を逸らし続けていたのだ。


「はぁ……」


 学校にいる間は、その現実から僅かながらに目を逸らしていられる。けれど、屋敷に戻れば現実が待っている。それまでの道のりは、ただ苦しみしか与えてくれない。

 やがて、いつものように堂々と構える屋敷と門、そこを守る門番の姿が――。


「ん?」


 屋敷や門に変わりはない。しかし、門番の姿がどこにも見えなかった。いついかなる時に帰っても、彼らは二人そこに立っていたのに。一体、何があったというのだろう。その疑問と好奇心から、自然と重かった足も速く動いた。

 近付いていくと、次第にそれがはっきりとしてきた。門番達は、そこにいた。けれども、彼らは門の柱にもたれかかるようにして座っていた。だから、見えなかったのだ。


(死んではないみたいだな)


 僕が近付いても気付かないくらい深い眠りに落ちているが、呼吸ははっきりとしていた。それに、目立った傷もない。本当にただ眠っているだけ。しかし、不自然過ぎる。夜でも朝でも起きている彼らが、何故今この瞬間に眠っているのか。見れば見るほど、疑問だった。


(どういうことだ? 彼ら以外のにおいがする。このにおいは、まさか……いや、でもそんなのあり得ない)


 彼らの前に立った時、僅かに香った。嗅いだことあるにおい。けれど、意味が分からない。だって、このにおいの持ち主はここにいるはずがない人物のものなのだから。


(中にいるのか?)


 そして、そのにおいが同じようにより濃く感じられる場所があった。それは、門の向こう。屋敷の立っている所からだった。


(でも、門は閉まっている。彼らを何らかの方法で眠らせるか気絶させた後、自らこじ開けて丁寧に閉めたということなのか?)


 もし、そうだったとして、ここまで強引な方法を取らなければならなかった理由は何なのか。


(こんなことをしなくても、普通に入れるはずなのに。一体、どういうことなんだ? 直接聞いてみれば……分かることか)


 緊張で僅かに手が震えた。会うのは、国を発って以来のことだ。どちらにしても、屋敷の中には入らなければならないのだ。


(行こう)


 僕は意を決し、門を開けて一歩ずつ前へと進んだ。

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