生命を削り
―レイヴンの森 夜―
飛散するベッキーさんの体。その様子は、静かでありながも美しく散っていく線香花火のようだった。その儚さを、蜻蛉に例えて。かの剣豪が技の一つに加えたのだろうと思う。
しかし、今の僕にそれを見届ける余裕はない。まだ三人残っているし、僕が自我を保っていられるのがいつまでかが分からないから。すぐに刀を構え直して、マイケルさんに斬りかかった。
「騙したのかっ! タミっ!」
怒りを露に、僕の攻撃をかわす。
「言ッタま、ま。嘘なンてナい」
この刀を用いて、演舞剣術を行えば苦しみを味わうことなどないのだから。痛い思いをさせたくないのならという言葉に嘘は微塵もなかった。それが分からないのは、彼自身が体感していないからだ。
「許さない。絶対に!」
「す、ぐにワカらせてあげます」
「ふざけるなっ!」
そう怒鳴ると、彼は手に炎を纏わせて僕に殴りかかってくる。魔法だ、魂を削ってでも僕に復讐をする為に。僕は、その攻撃を素手で受けとめた。
「グゥウ……」
熱く、痛い。元々あるものと相まって、それは余計に増していく。でも、僕が魔法に対して魔法に対抗すればどんな副作用があるか分からない。僕だけならいいが、彼らまで巻き込んでしまうことになれば全てが水の泡。自分自身の状況を理解し切れていない故、致し方なかった。
「熱いだろう。冷やしてあげよう」
怒りの上に笑みを重ねて、僕を力強く睨みつける。すると、その言葉通り僕の手は灼熱の炎からは解放された。代わりに、炎ごと腕を氷付けにされて、まるで彫刻のようになった。
「そンな、に魔法を使ウと……本当ニ消滅、してシまいますよ」
今の彼にどれだけの魔力、いや魂の余力があるのか。生命力を削り、魔力へと変換することの恐ろしさ。しかも、彼らは度々言っている。この森にいる限りは、肉体があるのと同等の痛みがあると。つまり、生命を削る痛みも彼は味わっているはずだ。
このまま防ぐだけでは駄目だ。きっと、彼に勝つことは出来る。けれども、その勝ち方にはこだわらなければならない。そのこだわりの為に時間稼ぎをしている暇なんて、これっぽっちも残されていない。
「その前に、君を殺すよ。それさえ成すことが出来れば、この身が朽ち果てようと構わない。地獄の業火にだって焼かれる覚悟だ」
聞いたことがある、本当に恐ろしいのは死を恐れない者だと。自己犠牲に躊躇がない者だと。そういった者達は、死にすら避けられる。だからこそ、戦場で異名を轟かせると。
彼は既に死んでいるものの、僕にとってはそれと同じくらい厄介だった。
「ソうでスか……」
「さて、氷は砕かなくてはね」
そう言うと、彼は僕の手を強く握り締めた。凍った腕がミシミシと鈍い音を立てる。
(腕クらい……食べれば治ルかな)
「その鋭い爪は危険だ。後で、もう片方も同じように――」
「もうやめてっ!」
「やめて下さいっ!」
ピキッと氷の一部にヒビが入った時、二人の人物がマイケルさんを力ずくで僕から引き剥がした。




