ピアスの意味
―レイヴンの森 夜―
ケビンさんの狂気に、じわりじわりと押しやられているのが分かる。このままだと、僕は潰されてしまうかもしれない。
(この体勢は駄目だ。とりあえず、何でもいいからケビンさんとの間を一瞬でも作れれば……!)
押されるなら引いてやれ、と僕はあえて力を抜いて背後へと倒れる。すると、僕の思惑通り、彼もバランスを崩し、前のめりになった。
「がっ!?」
その隙を突き、彼の腹部に足を置いて体を押す。その際に、風の力を主として痛みをなるべく伴わないように配慮した。それが、現状出来る最大限の思いやりだった。
蹴り飛ばされたというより吹き飛ばされた彼は、その場にふらつきながら立ち続けていた。
(あのとんでもない力技さえどうにか出来れば……想像もしなかった、一体どこにあんな力があるんだ? 魔力も使わず、あそこまで僕を押してくるなんてとんでもないな)
「……舐めやがって、後輩のくせに年下のくせにっ! よそから来た奴のくせに! 俺は、そんなに弱いかよ。労われるくらい弱いかよ! 何なんだ、何なんだっ! なんで、後から来た奴の方が俺より強いんだよっ!」
僕の思いやりは、彼の自尊心を深く傷付けてしまったようだった。ピアスだらけの顔を真っ赤にして、僕を睨みつける。
「しかも、そこそこ顔がいいと来たもんだ。それはそれは、ちやほやされる生活を送ってきたんだろう? 俺らみたいに平凡以下の顔の奴らを踏み台に、さらに輝いてきたんだろ? たまに、思い出したように手を差し出して……そこで、株を上げてきたんだろ? 俺みたいな奴が、どれだけおしゃれしても奇抜な格好をしても見向きもされねぇ。それどころか、馬鹿にされるばっかりだ。俺にとって、選抜者っていうチームはそんな奴がいない優しい世界だったのによぉ、お前らが入ってきた途端に滅茶苦茶なんだよっ! どこまで……どこまで、俺から大切な物を奪うんだっ!?」
目が痛くなるくらいにつけられたピアスの意味を理解する。その派手な主張こそが、彼のコンプレックスの象徴だった。どうにかしたいが、どうにもならずずっと苦しんできた。その中で、ついに見つけた安心出来る場所。
それが、僕とリアムの選抜者入りによって破壊されてしまったのだ。しかも、その内の一人は裏切り者。積もり積もった感情を、全て僕にぶつけるのも理解出来る。
「一度でいいから、一泡吹かせてやりたかった。でも、その前にまさか殺されちまうなんてなぁ。しかも、気付かないくらい一瞬でだ。もう叶わないと思ってたぜ……だが、舞台は用意された。ここで、俺はお前を殺して……勝ってやる!」
彼は目を見開き、握り締めた拳を勢いよく地面に叩きつけた。元から持っていた力なのか、憎しみで増幅されたものなのか……地面は真っ二つに割れていく。裂け目が生じ、それは広がっていった。彼は、それを何度も何度繰る返す。単調だが、足の踏み場が次第になくなり、空中に避難するほかなくなってしまったのだった。




