演舞剣術
―レイヴンの森 夜―
選抜者達の攻撃の手がとまっている間に、僕は刀を取り出し息を整えて構える。
(これが、僕に出来る償い……)
刀を使うのは、幼少期以来だ。普段は剣だが、今回そうしなかったのには理由がある。
(この方法を使えば、きっと彼らに苦痛は与えずに済むはずだ)
この構えは、遠い昔にとある暴虐な王に仕えた剣豪が生み出したとされる『演舞剣術』と言われるもの。まるで、舞のように美しい立ち回りから、そう呼ばれるようになったらしい。実際に伝承者から見た時に、僕も美しいと幼心に感じた。恐らく、刀と魔法を組み合わせた複雑な太刀筋が美しさを与えるのだろうと思う。
(まだ、体は覚えている。見たまま、学んだままをこなすんだ)
美しさか、使い手の技術故か――斬られる者は一切の苦痛を感じることなく亡くなるらしい。それに魅了されながら。
敵対する人物のことを考える余裕がなければ絶対に出来ない。無意味で不必要だ、敵のことを思いやることなど。ありえない思想から生まれた、不思議な剣術。きっと、剣豪は慈悲に溢れた人物だったのだろう。だからこそ、この剣術は生み出された。
(既に死んでいる彼らには、どの方法を取っても構わないだろう。諦めがつくまで、徹底的に痛めつけた方が手っ取り早いに決まっている。でも、与えられた苦しみは魂が消滅しない限り永遠に続く。終わりがないということが、どれだけ苦しいか……僕には分かる。それでは、救いにはならないんだ)
太平の龍が言った、救って欲しいと。そして、僕も彼らには償わなければならない責任がある。難しい剣術だが、必ずやり遂げなければならない。
「――疾風ノ舞!」
僕は風を呼び寄せながら、刀を素早く一定のリズムで何度も振り続ける。
彼らが、方々に散らばっていったのは分かっている。まずは、彼らをまとめてこちらへと呼び寄せる必要があった。演舞は、遠距離ではあまりその効果を発揮しないという。このような場合に備えての構えがあるのは、流石としか言いようがない。
「きゃあああああっ!」
「メイっ!」
すると、二人の選抜者がそれぞれ別の場所の木々の間から落ちてきた。先ほど、不慣れな様子で僕を挟んで蹴りと殴りを入れてきた女性達だ。彼女ら以外は、何とか堪えているのだろう。大したものだ、魔力を使わずして自力だけで踏ん張るとは。
しかしまぁ、それならそれで好都合だ。なるべく少人数で片をつけたい。僕は剣豪ではないから、大人数相手だと恐らく失敗する。
「メイさんとシャオさん……ですか」
僕が一番近くにいたメイさんに刀を振りながら近付くと、彼女は激しく首を振って涙を流す。
「そんなに怯えないで下さい。僕はもう、僕の意思で動いています」
「あぁああああああっ! シャオ……シャオ……」
腰が抜けているようだ。酷く震えながら、シャオさんの名を祈るように発する。
「メイに……手を出すなアルっ!」
その瞬間、風と風の間を縫ってシャオさんが駆け抜けて現れて、庇うようにしてメイさんの前に立って強く僕を睨みつけた。




