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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十九章 選抜者は森に集う
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退屈に飽いた者

―創造主 ? ?-

 虚ろな目で涙を流す巽を、慈しむような瞳で見つめる女性――ガイア。金色に染められた髪の下には、彼女の隠す真実が眠っている。


「これで……良かったのよね」

「みゃ~」


 黒猫は一度鳴いて、「そうだよ」と答えた。そして、地面を蹴って宙返りをする。その間に、黒猫の姿はフードを被った少年の姿に変わった。


「やりゃ出来るじゃん、てか俺の時にもそんな愛情を見せてよ」

「貴方は、この世界で生まれ落ちた訳じゃないでしょう。お母さんは、この世界の生物のお母さんにしかなれないの」

「冷たいねぇ。まぁ、別にいいよ。確かにその通りだし、俺にはそんな存在ないから。さて、そろそろそれをこっちに渡して貰っていい? 持って行かないと」


 フードの少年は嗤いながら、巽を指差した。


「お母さん、心苦しいけれど……それが、あの子の意思なら。それで、全ての子供達が救われるのなら」


 ガイアは儚く微笑むと、少年に巽を手渡した。少年の体格を考えると、大人の男性である巽を抱えて立つのは辛いはずだ。しかし、彼は表情一つ変えずに巽を腕に抱いた。


「ありがと。うぉ!?」


 そのタイミングで、強い風が吹く。すると、少年の被っていたフードが外れてしまう。そこから露になったのは、頭に生えた猫の耳。


「ヤベ、これ変な目で見られるんだよな」


 少年は顔をしかめて、頭を激しく動かしどうにか元に戻そうとした。しかし、残念ながらいいようにはならない。


「はぁ……おい、これ被せてくれ」


 諦めた様子で、少年は言った。


「もう何もしたくない。疲れたの。もうあたしのやるべきことは終わったでしょう? もうこれで十分でしょう? 何も言わないで。とっとと、そいつを連れてってよ」

「はぁ? ちょっと被せてくれって頼んだだけだろ。見てみろよ、俺の両手は塞がってんの。どうにか出来るのは、この状況でお前だけだろ」

「うるさい! うるさいうるさいっ! もうあたしはやった。やったの!」


 すっかり様子の変わったガイアに、少年は呆れの表情を見せる。


「クソババァが……いいよ、もう。屋根伝って行く」


 不満を漏らすも、小声であった為に彼女には届いていない。いや、届かせるつもりなどなかったのかもしれない。通常の状態の彼女に、棘のある言葉を浴びせると倍になって返ってくる。波のような感情に襲われて、心が酷く疲れてしまう。それを知っているから、少年は道端に聞こえないよう不満を吐き出す程度に留めた。

 そして、少年は巽を腕に抱いたまま地面を力強く蹴って、ふわりと空を飛んで建物の屋根へと着地し、軽快に屋根を伝う。


(行き先は、レイヴンの森か。わざわざ少年が運ぶのは、なるべく最高のパフォーマンスを巽に求めるからか。泉下妃(せんかひ)は、悔しいだろうなぁ)


 いくつかの視点で、気になるそれぞれの人物の様子を見比べる。蝶を操り、魂を探す泉下妃。その目を盗んで、レイヴンの森へと駆ける魂達。


(彼女には悪いけれど、この問題は片付けなければ意味がない。遠回りになるし、勝気な彼女は嫌うだろうが……一つの結末を見届けるとしよう)


 試作品であり、失敗作。加えて、穢れた魂の牢獄である為に数ある世界の中でも最下位。しかし、こんなにも楽しませてくれる。退屈することにも飽きた私にも、刺激をくれる。


(神の候補の活躍も、この目に焼き付けようではないか)


 もうすぐこの世界の日が沈む。何も起こらないのか、はたまたイレギュラーな出来事が起こるのか――期待を胸に、私は観察を続ける。

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