越えられる壁の限界
―自室 夕方―
やたら分厚く古めかしい本を持ち帰り、本を開いてみたのだが……内容を見て驚いた。
「読めない……だと」
タイトルが僕にも分かる言語で書いてあったら、内容も同じように書いてあるはずだと思うだろう。これは、いわゆるタイトル詐欺という奴なのではないか。
(読書は大好きだけど、言語が分からないんじゃ駄目だ。調べるなんてそんな気力はないし……)
読む人が読めばその言葉の意味や文脈が読み取れ、知識を得られるのかもしれない。けれど、僕が見るとただの記号の羅列にしか見えなかった。
(唯一分かりそうなのは……この隣のページにある絵くらいだけど……)
恐らく、挿絵のようなものなのだろう。文章の内容を補足する為のもの。丁寧なことに、全ページにあった。
しかし、もしかしたら何か手がかりになるものは見つけられるかもしれない。絵というのは、言葉の壁を越えるものだから。
(あれ? よく見れば、描いてある龍の様子が全部違うな)
詳細は分からないが、ざっくりとしたことは読み取れるかもしれない。そんな僅かな期待を心に抱きながら、僕は挿絵に目を通していった。しかし、残念ながら全ては分からなかった。
認識出来たのは、耳を塞ぐ人間に口から無数の文字を吐き出している龍や、木々の中で眠る龍、対になった龍、宴会を開いてどんちゃん騒ぎをする人間達を見下ろす龍、人間達に優しく寄り添う龍、崩壊した建物と骸骨の中央にいる龍――それくらいだった。中には見覚えのある龍もいた。
(他の龍は……ちょっと何をしているのか分からないな。まぁ、あくまで文章が主だろうし……仕方ないか。越えられる壁にも限界があるよね。あぁ、これって何の言語なんだろう。本当に記号にしか見えない。これさえ分かれば、少しは楽になるかもしれないのに)
もどかしい、絵を見ればこれが創作でないことは明らかだ。間違いなく事実に基づいて記述されている内容だ。
(というか、これって……歴史的に価値があったりするようなものじゃないのか? そこまでの価値がなかったとしても、こんな重要そうな物を捨てるなんて勿体ないよなぁ。僕だったら、何となく取っておいてしまうな。こういうのは)
価値は、人それぞれ。あの少年にとっては、必要のないものだった。そして、禁忌の情報が欲しい僕の元へとやってきた。
(このままじゃ、宝の持ち腐れになってしまうかもしれないな。はぁ……ゴンザレスにでも、これを送りつけてみようかな。僕よりは知識があるだろうし……それで、分からなかったら諦めよう。龍云々かんぬんより、今は黒猫に集中しなきゃいけないし。アリアを救う方が最優先だ)
そして、僕は近くにあった電話を手に取った。




