死者を探して
―街 昼―
開かずの扉を魔法で収納し、一旦屋敷に戻ることにした僕は街を歩いていた。
(この魔法は便利だけれど、継続して使うから消耗が激しいんだよな。だから、食事はちゃんとしないといけないんだよね)
「はぁ……」
部屋に置いておくのも不安だし、結局の所、自分で持っておいた方が安心出来る。今までは奇跡的に取られなかっただけ。負担になるけれど、そこはもう我慢するしかなかった。
(それにしても……だ)
「何なのよ、この蝶!」
「いつの間にか、家の中にまでいるぞ!」
「この蝶々、捕まえられないよぅ」
「しっしっ、あっちへ行け!」
「どこからこんなに出てきたんだい、至る所にいるわ!」
街中は、騒然としていた。無理もない。何故なら、不気味な黒い蝶が周辺に大量に飛んでいるのだから。
(少し前までは飛んでいなかった。やっぱり、あそこで魂の脱走騒動があったせいで……?)
この蝶は、コットニー地区にいたものだ。あの独特な女性がそれを操り道を作って、魂を冥界へと運んでいる時に見た。しかし、その道が突如と壊れ、女性はぶつぶつと呟きながら怒りと焦りを露に消えていった。
僕の勘違いでなければ、恐らくそれが原因だろう。
(脱走したのは……複数なのかな。結託とか言ってたし、一人ではないよね。でも、その中にドールはいない……と思いたい。だって、もう彼女には脱走する理由なんてないはずだから。声が朗らかに変わっていくのを確かに感じたんだから)
神かそれに等しい存在の目を盗み、その策略から逃れるなど只者ではない。そんな者が、あそこにいただろうか。コットニー地区に住む者は皆支配されて、それを当然のことのように受け入れていた。諦めていた。カラスもマフィアも。そんな彼らが魂だけになった所で、思い切りが良くなるとは思えない。
(しかも、アーリヤよりも上の存在だ。歯向かうなんて度胸が彼らには……あ、いや……)
その時、ふと思い出した。コットニー地区で死んでしまったのは、マフィアやカラスだけではない。アレンさん、クロエや選抜者達もあそこで命を落とした。
(集団でやらかすとしたら……巨大な存在を欺けるほどの連携が取れている集団があるとしたら……)
まさか、と思った。単体よりも集団である方が強力である者達を僕は知っていた。
(仮にそうだったとして、こんなことをする理由は? 彼らは――選抜者達は、何をしようとしているんだ? そんなにも強い思いがあるのか? もしくは、死への自覚がない、とかだろうか?)
考えても考えても分からない。いや、考えても無意味かもしれない。僕には無関係だ。選抜者がどうなっていようと、もはや死者は僕の引いた線の内にはいないのだから。
(こんなことより、黒猫がどこにいる可能性が高いかを……)
「ぅっ!」
「ひゃっ!」
考え事をしながら歩いていると、僕は何かにぶつかった。




