レイヴンの森へ
―? 上空 昼―
『このタイミングでなら、ここから出られるかもしれない』
『私達なら出来ますよ』
『うぅ、やっとここから出られるの……? ヒック』
『こんな所で閉じ込められていたら、選抜者の名も廃るってもんだよなぁ』
『ジェシーとマリーを探さなきゃ……』
『教授の気配は感じるアル』
『同意ネ』
――少し前にしたやり取りを、私は思い返す。
あの日からずっと、私達の魂はコットニー地区に閉じ込められ続けていた。圧倒的な力を前に、私達は敗北し惨殺された。及ばなかった、途中で離れた仲間達とも出会うことは叶わなかった。
(文字通りの敗北。他の皆は……どうなってしまったのだろうか)
灼熱と爆風に飲み込まれ、次に目を覚ましたら死んでいた。見知らぬ多くの魂が渦巻き、無念を口走っていた。その中から何とか仲間達を見つけ出し、コットニー地区から抜け出す方法を模索し続けていた。
そして、ついにチャンスが巡ってきた。魂の管理者を名乗り、この状態の私達を見れる者が道を作ってくれたのだ。
(追手が来ているようだ。分散したのだが……まずは、私が狙いか)
その道を破壊することで、見えぬ拘束から解放されるのではないか――そう考えた。皆で力を合わせ、魂を削り魔力を解放し、一部ではあるが黒い道を破壊することに成功した。しかし、それは悪目立ちする方法だった。だから、追手が来ることは想定済み。分散し、合流地点を決めて今に至る。
(レイヴンの森……そこに、教授はいるのですか……生きているのですか。貴方には、聞きたいことが腐るほどあるのです)
事件の結末、同じ選抜者内に潜んでいた裏切り者タミはどうなったのか、どうしてジェシー教授がレイヴンの森にいるのか――山ほどある。
「待てっ! マイケル=ジョーンズ! こんなことをして許されると思っているのか! 私は、お前達のことなら何でも知っている。あの選抜者達をまとめるのは、あの中ではお前くらいしかいない。よくもまぁ、やってくれたな! この私がわざわざ出向いて道を作ってやったというのに。この罪は重いぞっ!」
(後ろから、かなりの速度で追って来ている。やはり、あの見覚えのない服に身を包んだ女性だろう。振り返ることも応じることもしない方がいい、そんな余裕はない。魂だけになってしまったせいで、軽いが……魔力を使うと魂を削らなくてはいけなくなる。何とかして撒かなくては。これ以上、離れ離れになってたまるか!)
私に残っているのは、この魂と仲間達だけ。今、何も分らぬまま失う訳にはいかない。失ったものを取り戻すことは出来ないが、今あるものは握り続けていたい。
(管理者だか何だか分からないが、私にだって事情がある!)
私は、あの偉大なるタレンタム・マギア大学で誇り高き選抜者に選ばれた。その意地と覚悟を持って、得体の知れぬ女性から逃げ続ける。
(必ずや皆の元へ、レイヴンの森へっ!)




