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彼の中に

―クロエ ダイニング 夜中―

 イライラする。どうにかしてこの感情を抑えようとしても、少し前の出来事を思い出すだけで煮えくり返る。


「~フフフ♪」


 キッチンで、巽君が鼻歌を歌いながら皿を洗い流している。何があったのかは知らないが、学校帰りから機嫌がいい。彼は、本当に気持ち悪いくらい露骨に態度と表情に出る。


(普段だったら、死にそうな顔で皿割りまくってるくせに……)


 遠くから見たり、最近では何度か店内で彼を監視しているが、今回のように料理をゴミにしなかったのを見たのは初めてだ。


「クロエ! この皿はどこなの?」


 彼は洗い終えたであろう皿を、私に見えるように高らかに上げてそう聞いてきた。


「後ろの棚のとこ、同じ皿があるからそこに置いて。洗ったらちゃんと拭いてよ」

「は~い」


(封印して作り替えた記憶におかしな点はない……ないけど)


 今の所、記憶の改変によって巽君が壊れてしまったりという最悪の事態は免れた。記憶の改変を事を知ったボスによって指示され、私はそれを実行した。封印と改変の魔術、それらはあまり得意なものでない。

 でも、ボスに命令された以上絶対に果たさなくてはいけなかった。監視役としての務めをまともに果たせず、巽君を奴らの手に一度渡してしまった。本来なら、殺されてもおかしくない失態。ただ、ボスはそれを許してくれた。それどころが、私にチャンスを与えてくれた。

 そのチャンスを、結果として私は掴んだ。だから、巽君自身におかしな所は何もない――そう思っていた。


「クロエはいつも頑張ってるんだね、僕も手伝うようにしないとなぁ。余裕があれば、だけど……アハハ」


 “いつも”……その記憶は正しくない。何故なら、私が彼とこんな同居関係になったのは昨日の朝のことだから。豪邸の中に入ったのだって初めてだし、彼の為に料理を作ったのも初めてだ。長いこと、彼と一緒に過ごしたことはない。

 しかし、私が適当に与えた記憶を彼は信じている。私とずっとここに住んでいたと思っている。監視役と監視される側、その関係を平然と今の彼は受け入れている。受け入れ信じているからこそ、こんなことを普通に発するのだ。


「……余裕があれば? もう二度としないつもりなのかな、そこのニヤニヤしてるキモイ男は」

「キ、キモイ!?」


 彼はショックを受けたようで、手に持っていた皿を落とした。耳障りな音がダイニングルーム全体に響き渡る。


「僕が……キモイ?」

「ずっとニヤニヤしてたら、そりゃキモイ。皿、ちゃんと片付けておいてね。私、頭の中整理整頓したいから」


 皿を落としてしまうほどのことを言ったつもりはなかったのだが、耐性がないのだろうか。キモイだのなんだのを、そんなに言われる環境になかったから当然かもしれないが。


「気を付けるよ……」


 巽君は、すっかり意気消沈した様子で床に散らばった皿の破片を回収し始めた。彼に、八つ当たりをすることは間違っているのは分かっている。

 けれど、彼の顔を見るとレストラン帰りのことを思い出して腹が立つのだ。それは、唐突で予告もなく起こった出来事だった。


『やぁ……クロエ、おひさしぶり。私のこと……嫌いだったよね? まぁ、仕方ないかなぁ。でも、この()()のことは守ってね。それが君の使命だもんねぇ?』


 歪な笑顔を顔いっぱいに滲ませたあの瞬間を思い出すだけで、虫唾が走る。


(どうして……生きてるの! どうしてボスは平然と受け入れるの? どうして――巽君の中に奴がいるの!?)

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