開かずの扉はそこにある
―コットニー地区 昼―
管理する立場も大変なものだ。恐らく、彼女も神と自称する立場の人だろう。軽薄なロキさんの雰囲気とは、かなり違って対照的だ。
(ロキさんは、他の神を傷付けここへ堕とされたと言っていた。つまり、僕と同じ囚人。特別な力こそあれど、特別な役割があるような感じではなかった。先ほどの女性は、この世界の魂の管理者だと言った。そう考えると、彼女は囚人ではなく……看守だと考えた方がしっくりくる)
彼女が去ったことで、奇妙な匂いは少し落ち着いた。状況は花やら蝶が無数にあって、かなり不可思議なままだが。とにかく、ここにもう知性のある行動をする者はもういない。脅威はない。自由に行動が出来る。
(ここに、置いてきてしまった開かずの扉を回収しないとな。このままでは、小鳥に申し訳ない。扉そのものは確実に大丈夫だろうが、ここにあるかどうかは分からない。物の匂いまでは察知出来ないし、えっと……)
どこに、放置していたかを思い出しながら瓦礫の中を歩く。
(確か、アーリヤの邸宅には劣るが豪華な場所だった。ロイさんがいた。そこに行くまでには、マフィア達がうようよしていた。ここら辺りよりも整備されていた……)
記憶を頼りに進んでいくと、次第に建物の崩壊が緩やかになっていく。比較的綺麗な形で残っている建物を見ると、目的地は近付いているように感じた。そして、記憶と目の前に広がる実際の光景が繋がり始める。
「そうだ……ここを」
あの日、アレンさんに案内して貰った道を今度は一人で進む。すると、すぐに見えてきた。この場所には、不釣合いな大きな建物が。
(この辺は、綺麗だな。まだ建物の形は残ってる。窓とかは割れていたりするけれど……まぁ、大暴れした場所とは少し離れているから当然か)
かつては、マフィア達の拠点となっていたここは今では虚しさだけが残っていた。建物の大きさが、虚栄に見えた。
(よし、行こう)
いい思い出は皆無だが、ここには取り戻さなくてはならない物がある。僕は息を吐いて、ドアの取っ手を引っ張った。
「開いた……」
鍵はかけられていなかった。悪臭がしないように片付けて、出入り口に立ち入り禁止の魔術を軽くかけていただけであった。
こんな場所に寄り付く人も、近付く人も本来はいない。その程度で済ませていても、まったく問題ないのだろう。だからこそ、例外がこんなにも簡単に入れてしまうのだ。
(えっと、どこの扉と付け替えたんだっけ?)
中に入って、付けられている扉を見ていく。開かずの扉は、他の物とはかなり異なる。木製でありながら、常に新品のような綺麗さで傷も汚れも一つもない。その異様さは、ぱっと見ただけでも分かる。
(あった!)
そして、その異様さは変わらず、ここにあった。僕が置いた時と変わらぬまま。扉として、何食わぬ顔でそこにいたが異様さまでは拭えていなかった。
僕はそれのある場所へ急いで駆け寄って、開かずの扉を回収した。




