魂は結託して
―コットニー地区 昼―
(これで、ドールの気は晴れたのだろうか?)
天へと続く黒い道の先にあるのは、天国か地獄か。冥界という場所の詳細はよく知らないが、死者の魂が行き着く先だということは何となく分かった。
(だけど、きっと……犯した罪が許されることはない。その存在が創作でなければ、行き着く先は地獄だろう。命令されていたとはいえ、実行したのは彼女自身なのだから。奪った事実は変えられない。それ相応の罰を、受ける……)
ロキさんが言っていた、この世界そのものが牢獄であるという話。もしも、それを事実だとして捉えた場合……罪を償うべき場所で罪を犯したということになる。僕の国の法では、牢獄で違反となる行為をした場合は刑期が延びたり、罰がさらに重くなったりする。
そういった類のものが、この世界の規則としてあったら――また、ドールの魂はここに堕とされてしまうのだろう。かつて、犯した罪を知らぬままに償わなければならなくなる。
(僕も、いずれ……いつになるかは分からないけれど)
僕の魂は穢れだらけ。天国などに行けるはずがない。地獄で苦行を重ねて、またこの世界に戻される。罪人として。
(あぁ……もう、罪を重ねるのは嫌だなぁ。本当は誰も殺したくないし、傷付けたくもないのに。でも、やっぱり……僕には出来ないのかなぁ)
これ以上、生きても過ちを繰り返してしまうだけ。己の弱さのせいで。願うことなら、蝶にこの道の先へ連れて行って欲しい。
けれど、それではいけない。僕の為に、自らの命を犠牲にしてしまった人達に示しがつかない。それに、無理にここで逃げ出そうとしたら、呪いがどのような形で発動してしまうかが分からない。だから、ぐっと堪えた。心の奥底へ、逃げ出そうとする弱い感情を押しやって。
(この命で生きることこそが、まずは僕が出来る償い――)
道を眺めながら、そんなことを考えていた時だった。突如として、その道の一部が爆発音と共に崩れた。粉々になった蝶が、飛散するのが見えた。
「何事だっ!?」
これには、着物の女性も予想外だったようで取り乱していた。すると、彼女の耳元にすぐに数匹の蝶が飛んでやってきた。
「……馬鹿な、魂同士が結託し逃げ出しただと!? この私が作った道を……罪人風情が!?」
その動揺は大きな苛立ちとして、少し離れた場所にいた僕にも伝わってきた。話しかけるのが恐ろしかったが、ここで臆するようでは情けない。意を決して、彼女に言葉をかけた。
「あ、あの……何かあったんですか?」
「失態だ、これは。まさか、この醜態を罪人の目の前で晒すとは。見て聞いた通り、魂の脱走を許した。この私が直接動いたにも関わらず、だ。これでは……あの方に示しが……! くっ、蝶よ! ここは、任せる!」
顔を怒りで真っ赤に染めて、彼女は蝶の姿となり遠くへと羽ばたいていった。




