思い出の場所へ
―街 昼―
保健室を飛び出して、僕は学校中をくまなく見て回ることにした。それは、トリガーとなるあの黒猫を探す為だった。しかし、結局見つからず、気が付いたら街の方にまで来てしまった。
(黒猫、黒猫はどこだろう?)
不幸を道連れに現れるあの黒い猫、それがどうしても必要だった。少し前までは、あんなにも巡り会えたのに。本当に出会いたい時に限って、姿を見せてくれない。
(力が、どうしてもいるのに……)
僕にとって、唯一無二の友人であるアリア。そんな彼女の為なら、他の顔も知らない誰かを犠牲にすることに躊躇いはあまり感じなかった。きっと、友人である彼女は線の内の人間のはずだ。
(どこにいる? ここにもいないとなると……もう少し、人気のないエリアだろうか? 人気がないといえば、コットニー地区だけど……)
今、あそこは完全に廃墟の集まりで立ち入りが禁止された場所になっている。元々の不気味さと相まって、かなり雰囲気があると噂で聞いた。人の立ち入りが禁止されるということは、そこを安全と判断して根城にする動物がいてもおかしくない。
正直、あまり立ち寄りたくはないが――そういう場所でこそ、探す価値はあるのかもしれない。それに、あそこには置いてきた物がある。それも取り壊しが決定される前に、他の誰かに回収される前に取りに行く必要があった。普通は特別な物と気付かないし、あれは傷付かないから大丈夫だとは思うが。
(行くしかない、よね。いや、行くんだ)
アリアは、自分にとって利益など何もないにも関わらず、僕を迎えに来てくれた。罵倒を浴びせ続けた僕を見捨てることをしなかった。
それなのに、僕が逃げていてはいけない。こんなにも、ちっぽけな理由で。
(どこまでいっても、僕は彼女に迷惑しかかけていない。僕さえいなければ、彼女はもしかしたら幸せに暮らせていたかもしれないのに。こんな形で、父親を失うこともなかったはずなのに。だから、せめて……僕の責任は僕が取らないと)
僕が奪ってしまったものは、あまりにも大きい。恐らく、あの別れた段階では彼女も僕が犯人だとは気付いていないはずだ。気付いていたら、あんな優しい表情は出来なかっただろうから。
今は、どうかは分からない。様子も表情も、見れないから。でも、もしかしたらあれ以降何かをきっかけとして気付いてしまったという可能性もある。だから、姿を見せない……そんな考えが頭をよぎった。
(もしも、僕が父親を殺した獣だと気付いていたら、アリアは……復讐を望むのかな? 嗚呼、でも僕は死ねない。彼女の復讐心を解決することは出来ないかもしれない)
奪うだけ奪って、与えることは出来ない。あまりにも不甲斐なかった。
(でも、復讐してくれたらどれだけ楽が。憎悪の感情を抱いてくれたら、どれだけ楽か。もし、彼女が気付いていなかったとしたら……自分から告白しなきゃいけなくなる。彼女に嘘はつきたくない。たとえ、友達でなくなったとしても……僕は……)




