次へのヒント
―保健室 朝―
悶々としていると、呑気な声と共にドアの開く音が聞こえた。
「はぁ~い、あらあらぁ。ごめんなさいねぇ、散らかっててぇ。ちょっと陶器を包んでいたんですぅ、すぐに片付けますからねぇ。タミ君は、ベットで寝ていて下さいねぇ。既に連絡は受けていますからぁ」
その主は、アーナ先生だった。僕の顔を見るなり、優しく笑って足元に散らばる新聞を回収し始める。
「別に体調に問題がある訳では……」
「あらあらぁ? まだそんなことを言っているんですかぁ。嘘はいけませんねぇ。顔面蒼白じゃないですかぁ。どこからどう見ても、気分が悪そうですよぉ。ここまで来たといういうのに、往生際が悪いですよぉ」
「っ……」
自分の犯した罪の大きさと、新聞に書いてあった記事の内容に気分を害してしまったのは事実。どうせ僕のことだ、無意識下で表情のコントロールが出来るはずもないだろう。意識をしなければ、僕の気持ちは皆に常に公開してしまう。言い逃れなど、今更無意味だと悟った。
「さぁ、すぐにベットで寝て下さいねぇ。さっさとそこをどけてくれないとぉ、踏みつけている新聞が回収出来ないのでぇ」
要するに、邪魔だということらしい。
「あ、はい……」
これ以上、何か行動を起こせば同じようなことを言われるだろう。大人しく、ベットで寝ていた方がいいはずだ。僕はそう判断し、ベットへと向かって寝転んだ。
「そういえばぁ、新聞を見ていたようですがぁ……何か、興味深い記事でもありましたかぁ?」
すると、彼女は回収を続けながら、僕にそう問いかけた。それに、少し違和感を覚えた。
(おかしい。アーナ先生が来るちょっと前は、僕はもう新聞は見ていなかった。だってもう、それどころじゃなかったから。しっかりと内容を見ていたのは、まだ事実に気付く前……力が抜けて一時期的に立てなくなってしまうより前だ。言葉の綾だろうか……? まぁでも、見られていたとしてもいなくても、ここはそんなに重要なことじゃない……はずだ。とりあえず、ここは乗っておこう。何か引き出せるかもしれないし)
「えっと、その……やたら同じ事件の記事があったので、それが目に入ってつい。かなり大々的に取り上げられているみたいですね」
僕がそう言うと、彼女は鼻で小さく笑った。
「そりゃそうですよぉ。センセーショナルな事件じゃないですかぁ。娘が父親を残忍な限りに殺害して、逃亡。しかも、その娘はこのタレンタム・マギア大学に通う学生。それだけで、十二分に読者の関心は引けますぅ。タミ君だって、知っているでしょう?」
「それは……まぁ」
知っているはずの出来事、僕の頭からは綺麗さっぱり抜け落ちている。その部分を出来る限り、取り繕わなくてはならないのが苦しかった。
「結局の所、真相は未だに分かっていませんがぁ……警察も世間も、彼女が犯人だと決めつけていますぅ。特に、記事は本当に好き勝手ですよねぇ。彼女のことなんて、何も知らないのに中にはそういう兆候のある学生だったとまで書いてぇ。まぁ、大勢の認識してしまったことは事実になって、そこに合致しない部分はそれに合うように吹聴されていくんでしょうねぇ……」
(大勢の認識、事実……それを、変えられたら……!)
アーナ先生の言葉は、僕に次に起こすべきアクションのヒントをくれた。




