可愛いくらいの汚れ
―アリア 警察署前 夕方―
ノートの中身と事実関係を確認し、それぞれの事柄の説明を受けた後、私は解放された。モニカさんは、私の見送りの為についてきてくれていた。
「今まですまなかった。力不足故、組織の腐敗故……お前の身の潔白を証明することが出来ず情けない。今の所、分かっているのはあのノートで示した通りのことだけだ」
「いえ、十分です。むしろ、私の知らないことが分かってすっきりしました。私の方こそ、大した情報を提供出来なくてすみませんでした」
ノートに書き足せるような情報を持っていなかった。何故なら、私は事件の一部しか目撃していなかったのだから。つまり、謝るべきは私の方。だから、頭を下げた。すると、モニカさんは頭の上に優しく手を置いた。
「いいか、アリア。一応、お前は任意の下にここまで来たということになっている。あいつのことだ、いつもの如く強制連行し圧迫し、罪を認めさせようとしていたのだろう。とりあえず、黙らせたが……ああいう奴は本当に厄介だ。あいつが捕らえたのは、指名手配犯によく似た別人であった、と上に報告しておく」
彼女の言葉に驚いて、思わず頭を上げた。守秘義務を破り、虚偽の報告まで私なんかの為にするなんてという衝撃に襲われたのだ。
「え……!? でも、それでは――」
「これくらいの罪は軽い。それに、腐敗しきった組織にこれくらいの汚れなど可愛いものだ。この責任は、このモニカが背負おう」
決意を述べる彼女の表情は、本当に頼もしく信頼してもいいのだと感じた。私にとって、数少ない信頼出来る人物。特にこの状況では、希望の光以外の何者でもなかった。
「だから、お前の協力が必要不可欠。捜査に専念する為にどうしても……頼めるだろうか」
「協力……ですか?」
思いもよらぬ提案だった。こんな役立たずの私に、協力を求められるなんて思いもしなかったのだ。私に出来ることなんて、これっぽっちもないはずなのに。
「嗚呼、私の家に住んで欲しいのだ。お前にとって、そこまで悪い提案ではないはず。まず、衣食住を無償で保障出来る。身の安全も、今までよりかは守られるはずだ」
「住むだなんてそんな! そこまでのことをして頂くなんて、申し訳ないです!」
「問題ない。衣食住やらお前の身の安全を保障をするくらいのことは、気にすることはない。一人や二人、増えた所で困ることではないのでな……」
「ん? それってどういう……」
彼女の言葉に、引っかかりを覚えた。一人や二人増えた所で……と言われると、今現在、彼女の家にはそれなりの人数がいるかのように聞こえたのだ。
「本来なら、一緒に行くべきだとは思っている。しかし、そうも出来ない理由があってな。どうするかどうかは、家の現状を見て決めてくれ。私の家までの地図だ。周囲の人の目に気をつけて向かうように。今日中には帰る予定だ。それまでどうか、待っていてくれ。それではな」
「は、はぁ……」
その全てを理解する前に、手に地図をねじ込められてしまった。そして、彼女は足早に警察署内へと戻っていってしまったのだった。




