道理の外
―荒廃した村 昼―
教会から飛び出した僕の目に入ってきたのは、どんよりとした雰囲気に包まれた村の姿だった。その様子は、さながらコットニー地区の景観によく似ていた。
(教会の中とは、まるで違う。神聖で美しさを感じさせていたのに、外は……)
そんな光景を見て、気分を晴らせるはずもなかった。僕の心をより重く、より掻き乱していった。
「――どうでしょう? 中々に、素晴らしい光景であると思いませんか?」
誇らしげに、ロキさんは僕の隣に立った。この有様を見て、素晴らしいと言えるなんて本当に頭がおかしい人なのだと思った。神に選ばれるくらいなのだから、当然かもしれないが。
「理解に苦しみますね。どこに素晴らしさがあるのか、教えて欲しいくらいですよ……」
教会だけしか見ていなければ、彼のような言葉も出てくるかもしれない。けれど、全体を見た時にその美しさは歪みとして映る。醜さとして表れる。
貰った配給を貪る者達、道の端で倒れている者――生と死が目に見えて共存していた。
「ここは、私が私の為に創り上げた理想郷。半永久的に信仰と力を得られるのです。加えて、学のない者達の集まり、私の思うがままに操れるのです。生きることに精一杯で、成り上がるという気持ちすら抱けない。それは、この私がコントロールしているからです。完璧なのですよ、ここは。私の最高傑作なんです。それを、素晴らしいと思わなければ創作物に失礼でしょう?」
「そんなの――」
「巽様が、一部の人間を見殺しにするのと何ら変わりません。自分が高みを望むには、多少の犠牲はやむを得ない。ねぇ、そうでしょう?」
心に突き刺さる彼の言葉。間違いなく、正論。僕自身の歪みも分かっているからこそ、余計に辛かった。僕は、頭のおかしいこの人と同じ。
「それに、こんな虫けら達は私達のような者の踏み台にされるくらいしか生き甲斐はありませんよ」
彼はそう言いながら、道端で倒れる人の顔を躊躇い一つ見せずに踏みつけた。地面を踏むのと同じように。
「ほらね? ここで寿命を迎える前に死ぬということは、私を信仰しなかったということ。こうやって踏みつけられることくらいでしか、私には貢献出来ていないのですよ。まぁ、外に出たら予期せぬ出来事で突発的に亡くなってしまうこともあるでしょうが……」
不敵な笑みを浮かべ、彼は空を見上げる。
「村の外の人間を守る道理はありませんからねぇ。最低限の命を保障してあげるのは、私を信仰する村にいる人間達だけです。フフフ……」
外にいる人間を守る道理はない、内にいる人間は守る。それは、僕の考えと同じだった。線の内か外、そこで命を判断し切り捨てる。憎らしい神と同じ考えであるなんて、なんて皮肉だろうか。
しかし、それが現実だった。生まれる前から穢れきった魂に、これからも穢れを積み重ねていく愚かな王になるしか僕にはないのだろう。僕には、父上と同じやり方では皆を守る力などないから。




