穢れた魂の行き着く先
―教会 昼―
「同じ牢獄の住人……? 何のことを言っているんですか?」
「う~ん、ついでだから言ってしまいましょうか。この世界の真の役割について」
「ついでって……」
神を自称するロキさんは、僕の気が遠くなるような時を生きているはずだ。創造主に認められ、選ばれた時にもよるけれど。少なくとも、僕よりはこの世界のことについて知っているだろう。本来、神というのはこの世界の外から人々を見下ろしているような存在であるはずだから。
「この世界は、いくつかの異世界を初めて融合させ出来た試作品なんですよ。ですから、この世界には様々な種族が様々な価値観を持って暮らしています。人間、鳥族、人魚、龍、動物……この世界が出来たばかりの時は、もっと種族数は多かったんですがね。争いもあって、生き残った主な種族はこれくらいです。本当に醜い争いでした。だから、創造主様は悩み……これを、失敗作だと処分しようとしました」
人間や動物、龍は陸に、鳥族は空に、人魚は海……主にこのように分かれて、何となく世界は動いてきた。時にぶつかり合うことはあっても、このバランスは絶妙だ。これが出来上がったのは、途中かららしい。
「この世界が失敗作だとして、処分しなかった理由は何ですか?」
「慈悲がある方ですから、創造主様は。どんなに醜悪な者達でも、自分が生み出したことに変わりはない。失敗作にしてしまったのは、自分の未熟さもあるなどと慮られたのです。ですから、この世界は今も在り続けているのです。そして、この世界に新たな役割を与えられました。それが、牢獄でした」
「ちょ、ちょっと……待って下さい」
話があまりにも壮大過ぎて、噛み砕くことも出来ない。この世界の成り立ちとか、どういう意図によって成り立っているのかなんて、ずっとこの世界で生きてきた僕には理解するのが難しかった。
「混乱してますか?」
「するに決まっているじゃないですか。この話を平然と聞ける方がどうかしてますよ」
「どこから混乱してるんですか?」
「最初からですよ。異世界があることとかは、色々あるので知ってます。だけど、この世界がそれらの融合体で試作品だとか次から次へと情報を出されても、はいそうですかとは言えないですよ」
僕は頭がいい方ではないのもあって、余計分からなくなる。こういう難しい話は特に駄目で、本当に思考速度が低下する。
「なるほど。でも、話しておきたいんですよ」
「ですから、なんで僕に……」
こういう話が、好きな人はいくらでもいるはずだ。理解もして、さらに会話も弾むだろう。話す相手を、確実に間違えているとしか思えない。
「考えて考えて、その果てに絶望する巽様が見たいから……嘘か真実か、その中で壊れていく貴方が見たいからですよ」
「は……?」
「分かりましたか? では、続けますね。牢獄となったこの世界は、創造主様に歯向かった神や他の神を傷付けた神が堕ちる場となりました。ちなみに、私は後者です。そして、この世界に生まれ落ちる生物達もまた罪人の生まれ変わりです。つまり、ここは穢れた魂の行き着く先。ですから、この世界には罪人しかいないのです」
彼の言葉を信じるのなら、この世界には聖人などいないということになる。僕らは皆、生まれながらにしてその記憶がないにも関わらず、罪を償い続ける存在であるということ。自分達は罪人であることも知らず、この世界が牢獄であることも知らず。
「ん? 少し分かったっていう表情をしてますね。ま、信じきってくれてはいないようですけど」
違う、信じたくないだけだ。僕はともかく、他の人達まで全員が罪人の魂であるということはつまり――父上もそうであるということだから。皆を、あんなにも真っ直ぐ引っ張る父上の魂が穢れているなんて信じたくなかったのだ。
「すみません、少し外の空気を吸わせて下さいっ!」
頭の中がぐちゃぐちゃで、気分が悪い。一応確認したけれど、それを認めて貰う前に僕は教会から飛び出していた。




