嘘の為なら
―教会 昼―
ロキさんの話は全て嘘、その前提で話を聞いていると、先ほどまでの妙な浮遊感は一切感じなかった。どうやら、アルモニアさんの言っていたことは本当であったらしい。
(神を自称する奴らは、本当にとんでもないな。こんなやり方で、力を得ようとするなんて……いや、僕も同じか)
ロキさんのやり方には嫌悪感を覚えたが、すぐにそれは自分自身を棚に上げている行為だと気付いた。僕は、力を得る為なら見殺しにする。救いもしなければ、慈悲を与えもしない。ただ傍観するだけ。僕は、大悪党だ。この世を搾取する神以上の。
「――さて、皆様。祈りの時間は終わりです。そして、信心深き皆様にロキ様よりお恵みです」
どうやら、あらかた話し終えたらしい。
(それにしても、欺く為とはいえ……自分の名前に様を付けるのは恥ずかしくないのかな?)
恥ずかしげもなく、堂々と出来るのが羨ましい。ずっとやり続けると、何も感じなくなるのだろうか。それとも、元々そういう性格の人物だったのだろうか。嘘の為なら、恥も何も感じない性質なのかもしれない。
(聖女を演じ、信仰を得る為にここまでのことをしているのかな? だとしたら、目標にした方がいいのかな。経験を積めば、僕もこうなれるかもしれない)
そんなことを考えながら、観察を続けていた。すると、彼は手を組んでそれを天に掲げた。その瞬間、壇上に大箱がどこからともなく現れた。
「……神からのお恵みを望む者は、並びなさい」
それに合わせて、しばらく静かにしていた神父が口を開いた。
「嗚呼! なんとありがたい!」
「流石は、俺らの神様だぜ……」
聖女に見惚れていた者達は、一目散に列を作り始める。
「本日のお恵みは、パンとスープです。感謝をお忘れなきよう」
お恵みというのは、どうやら配給のことのようだ。正直、パンやらスープやらというのは神聖な感じは皆無に等しい。それで、ここにいる者達が満足し納得しているのだから余計なお節介なのかもしれないが。
「さあ、どうぞ」
ロキさんは笑みを浮かべて、一人ずつ丁寧に手渡しで食べ物を配っていく。それを、人々は頭を垂れながらありがたそうに受け取る。
「聖女様……ありがとうございます」
「いえいえ……」
行列も食べ物を受け取っていくことで、徐々に減っていく。祈りの最中は不幸が顔いっぱいに広がっていた彼らの表情は、晴れたものへと変わっていた。
(自ら直接手渡しか。自分に様付けしているのに、こういうことは普通にやるんだな……)
気味悪さすら覚える。彼の行動原理を理解するには、少し時間を要しそうだ。
「そこの方々」
列が綺麗になくなり、教会から僕らを除いていなくなった時、彼はこちらに向いて声をかけてきた。




