表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十七章 嘘の舞台
437/768

往生際の悪い女

―アリア 街 昼―

 私は、猛烈に後悔していた。と、同時に食欲を責めていた。


「警備を徹底しろ! 怪しい奴がいたら、すぐに報告しろ!」

「「「イエッサー!」」」


 指令を受けた警察官達が、慌しく遠くへと走っていく。


(最悪だわ……うぅ)


 巽と別れた後、私は一度隠れ家のある森へと戻った。だけど――。


「ぐぅぅぅ……」


 恥ずかしいくらい大きな音で、お腹の虫が鳴いた。周りに人がいない路地裏にいたことが幸運だった。いや、どうせ私なんていてもいなくても気付かれないことの方が多いから、気にしなくてもいいのかもしれないけれど。


「お腹空いたなぁ……」


 あの時に貰った食料も流石に底がつきかけていて、そろそろ買う必要があった。巽を強制召喚して呼び出した時、彼は「食べ物を持ってくる」と言ってくれた。そのお陰で、ここまで飢えに苦しんだことはなかった。ところが、隠れ家に帰る機会がなかった為に、食料の限界に気付けなかった。

 お金もそこまで持ってきていない。魔法でもしもの為にと用意していた、最低限度くらいのもの。もっと持っておけば良かったと後悔するしかない。


(もしもの時が、このレベルだなんて想像出来る訳ないもん……お腹空いたなぁ)


 何か安い食べ物を見つけ出す為に街を散策していたのだが、不穏な空気に包まれていて騒がしかった。皆の表情も暗くて、それぞれが疑いの眼を向けているかのような不気味さもあった。それが怖くて、ここで息を潜めていた。追われる身には、とてもじゃないが歩ける空気ではなかったのだ。


「はぁ……」


 時間をおけば、少しは落ち着くと思っていた。なのに、どんどん大通りの方が騒がしくなっていく一方で、出るのがさらに怖くなってしまった。


「マァ~マァ~! どこ? どーこ!?」


 飢えと恐怖に怯える私の耳に、幼い少女の泣き声が聞こえてきた。


「ん?」


 顔を上げて見てみると、少し離れた場所で赤いワンピースの少女が号泣していた。


「どうしたの?」


 私と同じ不安を抱えた女の子、どうにかしてあげたくて声をかけた。


「ヒック……あのね、あのね。ママがね、ママいないの」

「そっか、ママが。大丈夫だよ、大丈夫」


 こんなに小さい女の子が、一人っきりなんて恐ろしいだろう。この子の背丈だと、大通りの沢山の大人も建物も怪物みたいに見えるかもしれない。


(でも、ここは暗いし……よし)


 私は、女の子に尋ねる。


「お母さん、一緒に探す?」

「うん……」


 女の子は、消え入るような小さな声で頷いた。本当は怖かったけれど、私の方が大人だ。この子の不安を少しでも解消してあげたかった。

 そして、私は女の子の手を取って恐る恐る大通りへと出た。


「ママいない……ママ、いないよぉおおおぅ!」


 意を決して大通りへ出たのはいいものの、彼女の母親らしき姿はどこにも見当たらなかった。それによって、余計不安を煽られたのか彼女は泣き始める。泣き声だけが虚しく響いて、私の心にも突き刺さる。


(見つけてあげたい。お母さんだって不安なはず。でも……人が多過ぎて分からない)


「ママとは、どこではぐれたの?」

「うわぁああああんっ! ママぁぁあああっ!」


 どこで離れ離れになってしまったのかを聞こうとしたのだが、彼女はもう話せるような状態ではなかった。不安と恐怖をぶつけるかの如く、ただ泣き続けた。

 すると、流石に怪訝に思ったのか周囲の人々の視線が訝しげなものに変わる。そして――。


「そこのお前! 何をしているっ!」


 その騒ぎを聞きつけてか、巡回していた警察官の一人に声をかけられた。


「あ、えっと……」

「隣にいる娘……どうやら、お前の子ではないみたいだが……ん? お前、あの女に似ているな」


 警察官はじろじろと私を見て、ハッとした表情になって詰め寄る。鼓動が早く大きくなっていく。口から、心臓が出てしまいそうなほど。


「な、なんのことで――」

「ああっ、その顔……思い出したぞ! 父親殺しの娘だっ! こんな所に隠れていたとはな。今度は、幼子を誘拐かっ! お前には逮捕状が出ている、大人しく来て貰うぞ!」


 最悪のタイミングで、最悪の状況で、いとも簡単に正体を暴かれる。私の体は、本能的に逃げようとした。巻き込んではいけないと、女の子の手を離して。しかし、逃亡者を目前で取り逃がしてしまうほど警察も甘くはなかった。


「きゃあっ!?」


 体に電流が走り、足がもつれて転んでしまった。そして、すぐに拘束される。


「往生際が悪い女だ。今、応援を呼んだ。絶対に取り逃がしはしないからな」


 私は、何もやっていない。逃げろと言われたから逃げて、気付いたら犯人にされていて戻れなくなって怖かった。それに、警察は完全に私を犯人だと決め付けている。不信感があった。

 でも、そんな生活ももう終わり。でっちあげられた証拠で、きっと私は終わる。警察署で精密検査なんてあったら、父さん達と守ってきたものも失う。


(あぁ、ごめんなさい。私は……私は……)


 人々の好奇の目が、警察官に連行される私を無様に映した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ