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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十七章 嘘の舞台
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美月との差

―屋敷 昼―

「げほっ、おぇ……はぁ……」


 あれからずっと、食べた。食べ続けた。無心で、胃が悲鳴を上げるまで。どれだけ吐き気を催しても、それに耐えながら。


(吐きそうだ。無味の食べ物を永遠に食べ続けるなんて、本当に拷問だな)


 流石に全てを食べ切ることは出来なかったが、夜に頑張れば消化しきれる量にまでした。


(頑張れ、頑張るんだ。そうだ、演じるんだ。演じれば……どうにか乗り切れるかもしれないし)


 次、食事する時はそれを意識することにしよう。演じている間は、自分自身を忘れていられるから。味覚を誤魔化せるかは分からないが。


「た~つ~み」


 そんなことを考えていると、用があると出て行ったアルモニアさんが戻ってきた。何やら気だるげな様子だ。


「何ですか?」

「あ~全部食べてない。勘弁してよ、幅取るのに」


 彼女は、眉をひそめる。


「作り過ぎなんですよ……結構、食べた方だと思いますけど」

「はぁ。まぁいいけど。それより、今から出かけるわよ」

「え? 今から? どこへ?」

「教会。もう食べないんだったら片付けるから。準備して、急いで行くわよ」


 教会という単語自体は、習ったから知っている。けれど、どんな場所であるかまでは思い出せない。関わりがなかったから忘れてしまった。ゴンザレスが、説明していた記憶はあるのだが。


『ねぇ、この……ちゅうらっち? みたいなのってなんて読むの?』

『あぁ、これはchurch(チャーチ)。教会って言うんだぜ』

『そのきょーかいって何?』

『教会ってのは~ゲームにおいて、滅茶苦茶重要なんだよ。セーブしたりとか……まぁ、色々いいことがあんのよ。あ、現実世界では――』


(駄目だ! どうでもいい所までは覚えているのに、大事な所からがモヤがかかったみたいに思い出せない!)


 どうせ覚えていないのなら、全部忘れていたかった。こんなモヤモヤした気持ちになるなんて、憂鬱だ。


「ちょっと! 急いでよ!」


 僕が考えていると、イライラとした様子で彼女が片付けながら急かす。少し前から感じていたことだけれど、彼女は結構短気だ。これ以上、苛立ちをぶつけられるのは嫌だ。僕は立ち上がって、彼女の手伝いをしようとしたのだが――。


「私様が片付けるんだから、何もしないで! 貴方は出かける準備をして! 私様の隣にいても、恥ずかしくない格好じゃないと困るんだから!」


 僕から、彼女は皿を乱雑にひったくって睨みつけてキッチンへと向かった。


(そんなに怒らなくてもいいじゃないか……ったく)


 彼女のイライラが、僕にも伝染しかけていた。良かれと思って言ったことだったのに。美月がいた時との、この態度の差は何なんだ。気持ち悪いくらい大人しくなっていたのに、僕だけになった途端にこれだ。


(もう一度、美月をここに置いておきたいね。僕も辛いけど)


 僕と美月の差は何なのか、僕のどこに舐められる原因があったのか、そんなことを考えながら自室へと向かった。

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