青空の下
―街 朝―
人気のない路地裏で、僕は座り込んでいた。僕に出来たのは、劇場内に置いてあった電話で警察に通報するくらい。電話番号が隣に置いてあって本当に助かった。
「……もう朝か」
建物と建物の間から見える青空。それを見ると、昨晩までの雨が嘘のように晴れていて余計に悲しくなった。
劇場の中は血の海が広がり、所々に島のように誰かの体の一部が浮かんでいた。全てをくまなく探したけれど、誰が誰なのか一人も分からなかった。
(帰らないとな……こんなに汚れてる。夜は闇で誤魔化せたけど、朝は駄目だ。瞬間移動をして――)
「そんな格好で、こんな所にいたら疑われるぞ? 王よ」
「っ!?」
気が付くと、僕の隣には黒髪のガスマスクをつけた人物が座っていた。声色的に、恐らく少年だろう。そして、彼があの白髪の男性の関係者であることを瞬時に察した。
「貴方は、あの白髪の人の仲間ですか?」
「フッ。仲間……綺麗な言葉だ。まぁ、そういうことでいい」
「何の用ですか?」
「何の用か、だと? 今、大通りには警察がいる。ここら辺にも、いずれ来るだろう。その格好だと、まぁ……事情聴取は免れない。面倒事は嫌だろう?」
「……嫌ですけど、本当にそれだけですか?」
正直なことを言うと、あの白髪の男性に関わる人達のことはほとんど信頼出来ない。僕を散々振り回し、よく分からない目的の為に利用される。そんな扱いをしてくるような人の仲間なんて、信頼する方がおかしい。無論、クロエは違うけれど。
「……勘違いするな。俺は、たまたまここを通りかかっただけだ。お前が警察に捕まるなんてことがあると、こちらも面倒なんだから声をかけたまで。事あるごとに圧力をかける身にもなってくれ、直接かけられた奴は言うことを聞くが、間接的な奴は反発する」
「かけてくれなんて頼んでない……面倒事を勝手に増やしているだけじゃないですか」
その圧力は、僕の記憶にある限りでは一度露見している。レストランが何者かによって爆破された際、警察に勘違いで連行された時のことだ。
『――上からの命令で彼の釈放が決められた。異論は認めないって。さ、さっさとしないと命令違反で失職しちゃうかもよ?』
上からの命令、はっきりとアシュレイさんは言った。やはり、あれはそういうことだったのだ。拳銃を持っての脅迫行為、明らかに普通の理由での釈放でなかった。
「ふん、お節介に感謝することを覚えた方がいい。お節介がなければ、お前はその時が訪れるまで豚箱だ」
「余計なお世話に感謝するほど、出来た者ではありませんよ。では、そろそろ失礼します。貴方もお仕事なんでしょう? 僕なんかに構っている暇なんて、ないでしょう」
ガスマスクで正体を見せず偉そうに語る子供に、こんな風に言われる筋合いはない。どこにいっても、あの男の手の者はいるが……不気味過ぎる人物と一緒にいるよりかは、あの子供っぽいアルモニアさんと過ごす方がマシだ。
「小賢しい。人間風情が……フッ」
彼が、鼻で笑ったのが聞こえた。そして、立ち上がると素早く歩いて消えていった。明らかに不審だが、声をかけられたりはしないのか疑問に覚えたが、他人に気を遣っている余裕はない。僕は瞬間移動を使い、危機を回避したのだった。




