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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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事件の一報

―モニカ ドミニク劇場 朝―

『劇場内が……血まみれで、もう誰も……救えないんです』


 事件の一報は、一つの通報によって入った。聴取した者いわく、男とも女とも聞き取れるような声でこう述べたという。酷く動揺した様子であったらしい。通報者は場所などを言わず一方的に電話切った為、特定するのに時間がかかった。何とか割り出して、ここを突きとめたのだ。


「――酷いな、これは」


 通報を受け、我々が駆けつけた時には周囲は血に染まっていた。遺体の数は、外には間違いなく一つあった。しかし、中にあった遺体は元々はいくつであったのか認識出来ないくらいに凄惨な状況だった。肉片やら何やらが周囲に散らばって、足の踏み場がない。


(アリア=アトウッドの事件と類似しているな、様子と状況は)


「モニカ警部補」


 状況を整理していると、部下の一人が声をかけてきた。


「ん? どうした、何か分かったか?」

「被害者の体の一部から、よだれのようなものと噛み跡が見つかりました。それと、微かではありますが魔法分子がありました。ただ、それに人を殺すほどの威力であるとは……」


(証拠が残っているか……あの事件とは違うな)


 アリア=アトウッドの事件では、不自然なほどに証拠がなかった。徹底的に消されていた。個人を特定出来るような所は。故に、彼女は犯人に仕立て上げられた。アシュレイはそのことに怒り、上司に咎められても個人的に捜査を進めていた。そして、コットニー地区での事件の前日にそれらをまとめて自宅へ郵送してきた。本当に、どこまでも勝手な奴だ。


「なるほど。よだれと噛み跡か。動物がここまでのことをやったと?」


 この世界には、恐ろしく凶暴な生き物は多くいる。普段、人里には下りてくることはないが、極稀に迷い込んできてしまうこともある。けれど、ここは彼らの生活域と大幅に離れた都心部。ここに来るまでの道のりで、必ず目撃されるはずだ。


「痕跡だけで言うなら、そういうことになりますね……」

「これだけのことが出来る生き物が、ここに来るまでに目撃されずに、か。う~ん、他に何か分かっていることは?」

「外に倒れていた人物は、昨晩ここで公演していた劇団に所属する男性です。彼は、首元を刃物のようなもので切られたようです。しかし、彼は特徴のある犯人役でありながら、昨晩の公演には出演していなかったと調べがついています」

「出演していなかった? それなのに、ここにいたと? 何故?」

「公演を見た観客の証言によりますと、何やら特別な事情があって巽という人物が代役として出演したと。舞台終わりの座談会の冒頭で、そう説明を受けたようです。ただ、ここにいた理由まではまだ……」

「巽……!?」


 巽という人物のことは、知っている。何かと影が多い男だ。アシュレイから聞いた、あの男は他国の王族であると。あの男に関することは、我々のような下っ端には調べる権利はない。そういうお達しが出ているから。

 我々を裏切っていたアシュレイの言葉を、迂闊に信じてはいけないのかもしれない。けれど――。


「モニカ警部補?」

「あ、あぁ……すまない。では、引き続き捜査を続けてくれ。そして、何かあったらすぐに報告して欲しい」

「はい! 警部補はどこへ?」

「外にあった遺体を見に行く。少し気になることがある。今の所、彼の遺体が唯一の情報源だ」


 この事件には、彼女の事件と類似性がある。どちらも巽という人物が近くにいた。きっと、何か繋がりがあるはずだ。それを明らかにすることで、アシュレイの無念も晴らせるかもしれない。

 そして、アシュレイから受け取った手紙を握り締め、遺体の安置してある場所へと向かった。

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