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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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土砂降りの雨の中

―街 夜―

「――良かったの? 打ち上げに参加しなくて。誘って貰ったのに」

「いいんだ。いくらいい人達だからと言って、親睦の場に僕がいては気兼ねをさせてしまうから」


 座談会はゆるりと終わり、舞台の幕は下がった。その後、座長さん達に打ち上げに参加しないかと誘われたが断った。僕は、所詮新参者だ。内情など何も知らない。きっと、彼らにとって今までの苦労と努力を発散させる大切な会のはず。その空気を壊したりはしたくないのだ。


「そうかなぁ……結構馴染んでたと思うけどなぁ」

「周りの気遣いあってこそさ。ああいうのは、身の上話もあるからさ……僕がいたら申し訳ないよ」

「う~ん」


 アリアは、いまいち僕の考えに賛同出来ない様子だった。


「ん?」


 すると、彼女は突然空を見上げ、両手を広げて立ち止まった。


「どうしたの?」


 今日の夜空は、雲が我が物顔で居座っていて星は見えない。なので、僕的には気になるものは何もなかった。一体、彼女の目には何が見えているというのか。


「今、鼻に冷たいものが……あ! また!」

「え? 雨か?」


 見えたのではなく、感じただけらしい。けれど、僕は――。


「いっ!」


 冷たいものが目に入って、ひどくしみた。それから、目だけでなく顔や手など至る所に雨粒が落ちてきて、その感覚は徐々に短くなっていった。紛れもない、雨だった。

 周囲の人々も慌てて建物に入っていったり、傘を差したりする姿が見られた。


「この雨は酷いな。アリア、君はこの後どうするの?」

「えっと、私は……もう少し街をブラブラしようかなって」

「そうか……大丈夫かい? 実は、その、僕はあそこに戻ろうと思ってるんだけど……」

「私のことは気にしないで、巽も色々忙しいもんね。今日は、私のわがままに付き合ってくれてありがとう。またね! 風邪引いちゃ駄目よ!」


 そして、彼女は不器用な笑顔を浮かべて手を振った。僕もそれに応じて、振り返す。それを確認した後、彼女は雨にこれ以上濡れるのを避けるようにして、足早に雑踏にまぎれるようにして姿をくらました。


(またね、か。でも、いつ会えるんだろう。学校が始まれば、また会えるかな? 連絡先とか聞いておけば――)


 彼女の姿が消えていった方向を見ながら、僕はそんなことを考えてしまっていた。すると、そんな僕に誰かがぶつかってきた。


「邪魔だな! 雨降ってんのに、こんな所でぼーっとしてんじゃねぇよ!」

「す、すみません……」


 僕は、急いで道を空けた。気の強そうな男性は、舌打ちを浴びせて道を駆けていった。


(僕も急いで帰ろう。雨に濡れて、風邪なんて引いたら困るのは僕だし)


 それにしても、酷い雨だ。夜の雰囲気と相まって、少し嫌な感じがする。僕は、そんな嫌な雰囲気から逃れるように屋敷を目指して走った。


(ん……?)


 皆が雨から逃れるようにしている中、妙な人物と僕はすれ違った。土砂降りの雨の中、傘も差さず、慌てる様子もなく歩く虚ろな目のずぶ濡れの男性と。彼からは、どっちつかずな臭いを感じた。

 すれ違ってから、通り過ぎるその一瞬までで認識出来たその情報だけでも、かなり不審だと思った。


(考え過ぎか?)


 遠くで雷鳴が聞こえる。この雨は、もっと酷くなるだろう。走っていてはもっと濡れる。


(ここまで雨が酷くなるとは。これは、走ったら余計に体力も奪われるかもしれないな。視界も悪いし。こうなったら瞬間移動しかないか)


 しかし、瞬間移動を使うにしてもここでは人目があり過ぎだ。とりあえず、人通りの少ない路地道へと入ろうとしたその時であった。


「――みゃぁ」


 一匹の黒猫が、そこから飛び出して不審な男性が歩いていった方向へと人々の足元を抜けて走っていった。


(黒猫!?)


『――見届ける場所は黒猫が示すだろう』


 そんな龍の言葉が、僕の頭をよぎった。


(っ! 行くしか、ないのかっ!)


 雨だと匂いも消えるし、姿も見えにくい。悩んでいる時間などなかった。僕の望む安寧の世界を、黒猫が示すと言うのなら――僕は、それを見届けなければならないから。

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