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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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悪い魔法使い

―ドミニク劇場 夜―

「書きたくない、書くことが出来ない事情があった……とかですかね?」


 まず、僕は恐る恐るその話に続いた。


「名前がバレたら困るとかか? う~ん……となると、表舞台に出るような奴じゃなかったってことか? あ~駄目だ! 考えても考えても、全然分かんね! こういう難しい話は、嫌いなんだよ!」


 探偵役の彼が、気だるげに天を仰いだ。役と雰囲気は似ているけれど、その性格までは一致しなかったらしい。その姿が面白くて、少し笑ってしまった。


「フフ、そうですね。じゃあ、もっとそこを突いてもいいですか?」

「お前、馬鹿なんか? あ~駄目駄目、次の話題行こ――」

「逃げちゃ駄目ですよ!」


 話を次に展開されてしまったら困ると、咄嗟に彼の言葉を断ち切った。流石にそれは予想外だったようで、彼は呆然としていた。


「その……逃げちゃ駄目なんです!」

「だってさ、ちゃ~んと彼の難しい話を聞いてあげないと。探偵なんだし」

「……いやいやいや、だったら俺じゃなくて、座長とかしっかりしてる隣のじいさんにでも聞いた方がいいぜ? 在籍期間も長い訳だし」

「あ……そこを突かせてくれるなら、話を聞くのは誰でもいいです。ごめんなさい。逃げられたら、聞く機会がなくなってしまうと思ってつい……駄目、ですか?」


 僕が、この国に来た理由はたった一つだ。国を救うという、絶対的な使命の為。それを成すには、知らぬ間に国にはびこっていた化け物についての見聞を広める必要があった。その化け物の根源が、このイギリスにあった。だから、来た。僅かでも、その情報を得られるのなら僕は迷わない。


「いや、駄目ってことはねぇけど……そこまでのことなのか?」

「そこまでのことです」

「はぁ……眩しい視線だな。仕方ねぇな。で、何だよ。俺は多分答えられねぇから、皆! 頼んだぞ!」

「おう! どんとこい!」


 座長さん以外の皆に引かれているのは何となく分かったが、羞恥に負けては駄目だ。公衆の面前であること、彼らに役者としてのプライドがあり、劇団を思う心があるのなら偽りなく教えてくれるはずだ。たとえ、後で怒られても構わない。それくらいの覚悟が、今の僕にはある。


「皆さんは、この作品で出てきた『化け物』について知っていますか? ほら、エメがたとえ話で出してたじゃないですか。作品ではさらっと当たり前みたいに流されてましたけど、皆さんの中で自然に入ってくることなのかなって……」


 僕がそう言うと、舞台上からも客席からも「あ~」という声が響いた。


「台詞だって、流してたけど……言われてみれば、確かに。目の色が変わって化け物のようだって、どういう意味なんだろう?」


 少年が最初に口を開いて、頼るように執事役の人を見た。それに気付いた彼は一度首を捻った後、何か思い出したように手を打った。


「あ、そういえば聞いたことがあります。といっても、私が子供の頃に祖母から聞いた話ですから当てになるかは分かりませんが」

「お! 流石だぜ! ガハハハ! 言ってみろ言ってみろ!」

「では……ごほん。かつて、この国には悪い悪い魔法使いがいて、人を悪魔に変えてしまった。悪魔になった人達は、まるで化け物のように暴れた。そんな彼らが人の姿を取り戻した時、決まって目の色が変わっていたと。そして、彼らは魔法使いの手先として処刑されたと。歴史にはあまり関心がないので調べたことはありませんが、事実であれば恐らく載っているかもしれませんよ。それに、この国の者なら親などからよく言われませんでしたか? 『悪い子してたら、魔法使いに悪魔にされちゃうぞ』って」


 すると、僕以外の皆から再び「あ~」という声が漏れた。


「あったあった~俺もよく言われたわ。へ~、この作品めっちゃ深いな」


 この作品は、その騒動があった最中くらいに書かれたものということ。当時の人々の視点で、その事件について知れる。誰が書いたのか、他作品が明らかになればもっと分かるかも知れないが、ここから先は僕にどうにか出来ることではないだろう。


「なるほど、そうなんですね。ありがとうございます」

「いえいえ、これくらいのことしか言えませんが……良かったです」

「観客の皆さんも分かっただろ? 俺達の劇団の歴史の長さが! ハハハ! 歴史的瞬間に立ち会えて、良かったな! よし、今度こそ次行くぞ!」


 その後も、ゆったりとした座談会は続いた。僕も無事、話を聞くことが出来たので安心してその雰囲気に身を任せられた。

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