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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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誰かこの作品を書いたのか

―ドミニク劇場 夜―

 まず、彼らが説明したのは僕のこと。本来エメ役を務めるはずだった人物が特別な事情により、出演出来なかった為に僕が急遽僕が代役になったことを伝えた。


「――で、街で、座長が一目ぼれして無理やり連れてきたんすよ。でも、ポテンシャル凄いと思わねぇ? 一日、いや一日もなかったな。すぐに台詞覚えて、あんだけのクオリティにしたんだぜ? いや~マジで何者って感じなんだよね」


 探偵役の人が、僕を見ながらそう言った。


「何者でもないです。僕はただ……やるからには、やろうと思っただけで……」

「それが凄いってんだよなぁ。普通はさ、死ぬほど緊張して台詞飛んだりするぜ? それもなく、平然とやってのけるその度胸。ここでお別れすんには、勿体ねぇよ。ねぇ、座長!」

「だなぁ。お前は華になれるタイプだよ」


 座長さんの言葉に、他の皆が一様に頷く。


「や、やめて下さい。僕をそんなに褒めても何も出ませんし、出せませんから」


 それが恥ずかしくて、申し訳なくて、けれどどこか嬉しくて咄嗟に否定してしまった。


「どうだろうかなぁ? っと、あんまり無駄話は出来ねぇんだったな。え~っと、次何するんだっけ?」

「この作品の説明でしょ、忘れないでよ」


 愛人役の女性が半笑いで、そう突っ込んだ。


「あ~そうだった。いや~台本通りって楽じゃないね」


 彼は照れ臭そうに笑いながら、頭を掻いた。


(え? これにも台本があるのか? 僕、そんなの知らないけど大丈夫なのかな? 下手に発言なんてしたら、流れをおかしくしちゃうんじゃ? いや、それも含めての座談会なのか? 彼が全てをいい感じに取りまとめてくれるのか?)


「台本無視してやったら、お客さん達が帰れなくなっちゃうんだから頑張ってよね」


 娘役の少女が腕を組んで、探偵役の彼に強めの口調で冗談っぽく言った。


「じゃあ、お前がやれよ!」

「それはちょっと……」


 そんな彼らのやり取りで、観客席から笑いがこぼれる。


「は~まぁいいけどよ! こういうことは、俺くらいしか出来ねぇってこったな。は~い、じゃあやりま~す」


 彼は一度、咳払いをした。そして、すぐにまた話し始めた。


「えっとね、この『探偵カインと復讐鬼』は、俺達の劇団に伝わってきた伝統的な作品なんすよ、実は。一応、今回配布したパンフレットにも載ってるからそれ見た人は知ってるかもしれねぇけど。今回、それをやろうってなったのはね、この劇団で最初に上映された作品だからなんだ。幕引きは、やっぱ原点かな的なね」

「出来れば、このシリーズの他の作品の台本も見つけ出したかったんですがねぇ……まぁしかし、一作品でも見つけられただけでも幸運だったのかもしれません」


 執事役の男性が、思い返すように目を閉じた。


「そういえば、結局この作品を執筆したのって誰だったんですか?」


 息子役の少年が、首を傾げて質問する。そして、この質問は僕に対して一つの希望を与えてくれた。それは、先ほど諦めたことが成せるかもしれないという希望だ。


(この質問の流れに乗れば……化け物という表現があったことについて、自然に聞けるかもしれない!)


 絶対に逃してはならない、他の人に渡してはならないとじっと機会を待った。


「それがさぁ、書いてなかったんだよな。サインとか、他の作品の筆跡と似てるのもないかってその時期と同じくらいの奴とも比べてみたんだけどなぁ。外部に委託したのか、書いたことにこだわりがない人物なのか……この謎は解けねぇわ」

「まぁ、元々は金持ちの道楽の為に旗揚げされた劇団だ。あくまで趣味という考えだったのかもしれねぇぜ?」

「え~でも、自分が書いたならそれアピールしたくない? 頑張ったんだよ? 私だったら、フルネームだわ」


(何者が書いたまでは分からないのか。でも、少しでもこの人達が知っているのなら……!)


 作品の背景に触れられている、今しか自然に聞ける機会はないと思った。

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