公演の終わりに
―ドミニク劇場 夜―
舞台上では、後日談のシーンが始まっていた。火の消えた後には遺体も含めて何一つ残っていなかったこと、少年には確かに腹違いの兄弟がいたこと、警察に疑われたが証拠が一切なく解放されたこと、復讐鬼エメの詳細など――様々なことが語られた。
そして最後に、探偵が少年の後姿を見届けた所で舞台の幕は下りた。すると、彼らは急いでこちらへと駆け寄ってきた。
「疲れた~長いようであっという間でした~」
「まだ終わってねぇって。最後に挨拶があんだから」
「アハハ、分かってますって」
座長さんと少年役の人は、笑いながらそう軽く言葉を交わした。
(凄い。まだ、拍手が聞こえる。もう幕は、下りてるのに)
舞台袖にいても、はっきりと聞こえてくる割れんばかりの拍手喝采が、改めて舞台に立っていたという実感をくれた。中々鳴りやまぬ、拍手の音が今回の舞台の出来を証明していた。
「ヤベェヤベェ、めっちゃドキドキする」
探偵役の人が興奮冷めやらぬ様子で、挙動不審に周囲を見渡している。
「どうしたの? 落ち着きなさいよ」
「だってさ、どういうことを言ったらいいのか分かんねぇんだもん。緊張しちゃうぜ。こういうこともうしないって思ってたし、何か……ねぇ?」
「柄にもない。当たって砕ければいいのよ、ほら! あんたが主役なんだから! 司会ちゃんとやりなさいよ!」
愛人役の女性は、そんな彼の背中を思いっきり叩いた。
「うげ!? 姉さん、相変わらずおっかねぇよ。は~行って来るか~! しゃぁ!」
そして、彼は緊張した面持ちで舞台袖から飛び出していった。それと同時、舞台の幕が上がっていく。再び拍手の音が大きくなった。
「こんばんはー! 探偵で~す。最後の公演、最高だったよな? 今から、愉快な仲間達を紹介してくぜ! まずは――」
先ほどまで弱気な発言をしていたとは思えないくらい、彼は堂々としていた。緊張という言葉の意味を、履き違えて覚えているのではないかと感じてくる。
でも、皆には見えない部分でとんでもないくらい本当は緊張していて、それを一切感じさせていないだけなのだろう。
(凄いなぁ)
僕は、そんな彼の様子に見とれていた。そんな彼に紹介されて、続々と役者達が飛び出していく。
(僕も……素であんな風に出来たらな。王として、必要なスキルって奴だよね。でも、それは一朝一夕で身につくようなことじゃない。経験を積まないと駄目なんだろうなぁ)
「――おーい! 復讐鬼エメ役の人ー! おーい! あれれ? 俺の元気が足りねぇのかなぁ? おーーいっ!」
「っ!?」
気が付くと、周りには誰もいなくなっていて僕の番になっていた。舞台から、皆不思議そうに首を傾げてこちらを見ていた。
(ヤバイっ!)
焦った僕は、慌てて皆の元へ走った。暗い舞台袖とは対照的に、眩い舞台。思わず、目をすぼめてしまう。僕が出ると、観客達は歓声を送ってくれた。その中には、勿論アリアもいた。優しくて不器用な笑顔で、こちらを見ていた。
(あれ? 隣の席……人いたよね? もう帰っちゃったのか。つまらなさそうにしてた人だよね。なんで来たんだろう? 興味もないのに、一番前の席で……)
一番前のほぼ中央、アリアの隣の席にいたはずの黒いフードの彼は忽然と姿を消していた。どこでいなくなったのか、どこか気になる彼のことを長く考える暇もなく話を振られた。
「も~遅いぜ! 俺の喉が潰れちまう所だったぜ?」
「え? あ、す、すみません」
「ま、全員揃ったってことでOKだろ。挨拶も兼ねて、復活の座談会ファイナルをやっていきましょうか」
そして、彼らは舞台についてのことを順々に語り始めるのだった。




