表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
422/768

聞きたいこと

―ドミニク劇場 夜―

(熱かった……でも、無事に終わって良かった。ちゃんと、僕の出来る精一杯はやったつもりだ。あとは、あのことについて聞くだけだ)


 突然降って落ちてきた役目も終わり、僕は他の役者さん達と椅子に座り探偵役と少年役の人の演技が終わるのを待っていた。


「お疲れさん、迫真の演技だったな」


 僕が一息ついた所で、座長さんが声をかけてきた。


「凄く疲れました。でも……」


 演技をしている間は、自分を忘れていられて楽だった。演じている間だけは、嘘も平然とつける。きっと、それは――僕じゃない誰かになった気分でいられるから。


「でも?」

「とても有意義でした」


 その言葉に嘘はない。僕の吸収出来たことは、ほんの一部かもしれない。けれど、ここで学んだことはこれからの人生においてきっと役に立つはずだ。決して、無駄にはならないはずだ。


「それは良かったです。正直、座長が彼を連れてきた時はどうなるかと思いましたが……その目に、衰えはないようです」


 執事役の男性が、小さく笑った。


「そうだわ、これを持って行ってよ。迷惑をかけた相手に、大した物をあげられなくて申し訳ないのだけれど……」


 愛人役の女性はそう言うと、僕に一冊の冊子を差し出した。


「これは?」

「今回の劇の記念パンフレットよ。結構いい素材で作ってるの。ここの劇団と今回の題目の説明と、役者の紹介とかが載ってるの。貴方の所は、申し訳ないけど……」

「そんなことは気にしませんよ。ありがとうございます」


 パンフレットの表紙には、今回の演目名と登場人物達の写真があった。そこに、エメの格好をした知らない人がいた。


(この人が本当の……)


 僕とは比べ物にならないくらい、綺麗な人だった。儚げな表情、写真であるのにエメの気持ちが伝わってきた。


「結局、あの子来なかったね。誰も怒らないのに。無理させてきたのは、私達の方なのに……こんな形で爆発させて……言って欲しかった」


 僕がエメ役の人をじっと見ているのを気付いたのか、娘役の子が俯きながら悲しみに声を震わせる。


「無事なら、それでいいんだけどな……うん」


 しんみりとした雰囲気に、よそ者の僕が割り込む度胸はなかった。周囲の人達がどれだけ受け入れてくれていても、僕にはその輪に入り込むことなんて出来るはずもなかった。


(聞きたいことがあったんだけどな……そういう雰囲気じゃないよね。あぁ、どうしよう。あの化け物っていう台詞がもしかしたらって思ったのに。はぁ……)


『――石すらも燃やすその炎から、俺はこのガキンチョを連れて必死で逃げた。一か八か、無効化の魔法を窓に放ち突進すると、見事に割れた。あんなにも強固だったものがあっさりと。その直後、屋敷全体が炎に包まれた。俺達は助かった。だが、それはつまりあいつらは……救えなかったということ。無力感と絶望感の中で、ただ俺は呆然と燃え盛る炎を眺めるしかなかった』


「っと、このナレーションが入ったってことはそろそろだぜ」


 すると、僕以外の人が全員立ち上がり舞台へと向かっていく。


「何をするんですか?」

「最後の挨拶みたいなことをすんだよ。観てくれてありがとーってな。ほら、お前も行くぞ」

「は、はい!」


 聞きたいことを聞けなかったモヤモヤ感はあったが、やらねばならぬことがまだあるのならしっかりとこなしたい。

 そして、僕も立ち上がり彼らの後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ