泡沫の友達
―学校 昼―
「ひ、酷い誤解ですよね~私、びっくりし過ぎて何も言えませんでした!」
あの後、僕らは無言でチョコレートケーキを食べた。何とも言えぬ空気を誤魔化すように、僕らは甘いチョコレートケーキを口に急いで運んだ。無論、それでは美味しさなど楽しむことは出来なかった。
そして、あっという間に食べ終えた僕らはそそくさとカフェを出て、今こうやって二人で再び大学に戻ろうと歩いている。
「そうですよね、僕らは今日の朝出会ったばかりなのに……」
「本当ですよ。私はただお礼とお詫びを兼ねてのつもりでしかなかったのに、あの時に違うってはっきり言えば……すみません」
「いや、僕が言えば良かったんです。僕らはただの……」
そこから先の言葉が出てこなかった。僕らを表現するのに、最適な言葉が見つからなかったのだ。
今日の朝に迷子になっていたアリアさんに出会って助け、一緒に呪術の授業を受けた。出会って数時間程度しか経っていない。それなのに、僕は彼女と学校内にあるオシャレなカフェに来た。そして、彼女にケーキとコーヒーの代金を支払って貰った。
(この関係は一体……何だ?)
これまで、家族以外とは基本的に主従関係で生き続けたせいか、僕は適切な言葉を見つけ出すことが出来なかった。絶対に違うのは僕らが恋人であるということだけ。では、それ以外に僕らを表すとしたら一体何だろうか。
「と、とっ……友達って言うのはどうですか。あ、そ、その……め、迷惑だったらただの授業仲間ってだけでいいですけど……」
彼女は顔を真っ赤にして、そう絞り出すような声で言った。
「友達?」
すると、彼女は突然立ち止まった。真剣な話なのだろう。それに、僕は彼女の提案に興味があった。だから、僕も立ち止まって彼女を見つめる。
そして、彼女は小さく息を吸って口を開いた。
「私事で申し訳ないのですが……そ、その友達が欲しいって思ってて。でも、中々いい機会がなくて……あ! 別にこの機会を利用しようとしている訳でもなくて! 何と言えばいいのか分からないんですけど、あんまり緊張せずにこんなに話せたのは初めてなんです。私は一人でいても気付いて貰えないけど、一人でしかいたことなくて……勇気を出して、声をかけても気付いて貰えなくて。で、でも! 初めて気付いてくれたのが、タミさんだったんです。とっても嬉しかったんです! だから、どうか……と、友達に――」
「いいですよ、勿論」
僕にとっては、人生で二人目の人間の友達だ。彼女のその提案は、僕にとって涙が出るほど嬉しかった。小さい子供の頃、僕はずっと憧れていた。友達という関係に。そして、友達が沢山欲しいと思っていた。
「……ほ、本当ですか!? 私なんかと友達になってくれるんですか!?」
「僕なんかで良ければ……」
「ありがとうございます! あの、調子に乗って……もう一つ提案してもよろしいでしょうか?」
「ん?」
「お互いにその、もう少しラフに話しませんか? 本とかではそのように描写されていることが多いなって思って、それがいいなぁって思ってて。我が儘……でしょうか」
悲しそうで、どこか怯えた表情……きっと、それは今まで彼女が負ってきた心の傷がそうさせているのかもしれない。僕にも分かる、彼女の辛さや孤独が。そこにいるのに見て貰えないという、寂しさが。
「……そんなことないよ、アリア」
僕は、そんな彼女に出来る限りの笑顔を送った。
「あ、ありがとう……!」
アリアは、その薄紫色の瞳から透き通るような大粒の涙を流した。僕も、そんな彼女を見て泣いてしまいそうになった。でも、そんな姿を見せる訳にはいかない。だから、唇を強く噛んで涙を堪えた。
僕にとって、人生で二人目の人間の友達。お礼を言いたいのは、僕の方。きっと、この関係は僕にとって泡沫だが、未来永劫忘れることはないだろう。




