見たもの
―ドミニク劇場 夜―
探偵達は、眠る者を叩き起こす。そして、寝ぼけ眼の彼らに無残な女性の死体を見せた。
「なんで……なんで? なんでよぉ、なんでこんなことになってんのよぉおおっ! 私も殺されるの? あぁああっ!」
娘は、変わり果てた母親の姿を見てその場に泣き崩れた。
「なんで、ママが死んでるのよぉおぉっ!」
『見せるべきではない光景だったかもしれない。けれど、これが受けとめなければならない真実。この中に犯人がいることに変わりねぇ……反応を見て、それを暴ければ一番手っ取り早いんだが』
「誰が……一体誰がこんなことをっ!」
エメは目に涙を浮かべて、口を押さえて震える。
「俺も、こうなる……あぁ、死ぬんだ」
少年は、度重なるショッキングな出来事に放心状態になっていた。そんな彼に、執事が優しく寄り添っている。
「……探偵、あんた探偵なんでしょおぉっ!? なんで、まだ犯人を見つけられないのよ! ママが、ママは……あんたのせいで死んだんだっ!」
娘は、探偵に殴りかかろうとした。しかし、探偵はその雑な攻撃を見切っていとも簡単にかわした。
「そうだ、俺のせいだ。俺が、未熟だったせいだ。謝って済む問題じゃねぇってことは承知してる。後でいくらでも殴られてやるから、今は集中させてくれねぇか。これ以上の被害を出さない為にも、頼む」
探偵は、床についてしまうのではと思うほど頭を下げた。
「信じられないわ。あんたがとろいせいで、ママは死んだのに。あんたが魔術痕? とやらでさっさと犯人を見つけてくれてさえいれば、こんなことにはならなかったのに!」
「魔術痕を見分けることは、そう簡単なことではありません。そもそも、見つけることすら難しいのです。そうですよね、探偵さん?」
探偵だけが一方的に責められる光景に耐え切れなくなったといった様子で、エメはそう割って入った。
「嗚呼。少し前に説明したことを覚えてくれていて光栄だな」
「魔術痕によって、この屋敷に封印の術がかけられていること。弟さんが、猛炎の魔術によって殺されたことが明らかになった。私達だけであれば、原因すら分からなかったでしょう?」
「っ……」
その指摘に、娘は身を震わせながら唇を強く噛み締める。
「彼を信じるべきではないでしょうか。それが出来なくても、貴方は彼にすがることしか出来ないはずです。もしも、貴方に魔術痕を見分けて判断することが出来るのであればその必要はないと思いますが」
「うっさいわ! ウザイのよ! こいつがママを殺したことに変わりはない! 偉そうに語らないでよ! もう放っておいて!」
言い返す言葉が浮かんで来なかったのか、娘はエメを軽く突き飛ばした。そして、そのまま部屋から出て行こうとする。
「待て! 単独行動は――」
「ウザイ!」
探偵の制止も聞かず、彼女は部屋から出て行く。その後姿を、エメは強く睨みつけていた。そして、今度はその様子を少年と執事が見ていた。
「ひぃぃぃ……」
「坊ちゃん?」
「あの人、怖いんだ。前……あのおじさんも睨みつけてた。君も見たでしょ……」
ひそひそとお互いだけが聞こえる声で、彼らは話す。
「怒り故でしょう。あまり気にしては……」
「でも、もう笑ってる。ほら……」
エメは、探偵に向けて穏やかな笑みを浮かべ励ましていた。その光景が、あの身の毛もよだつような睨みを見た少年にはおぞましく見えていた。
「大丈夫です、私がおりますから。どんなに恐ろしいものも、坊ちゃんに危害を加えるようなことがあれば撃退してみせましょう。ですから、安心して下さい」
『後で、坊ちゃんの仰ったことも伝えてみましょうか。全員の行動から、彼に判断して貰わないといけませんしね……』




