魔術痕
―ドミニク劇場 夜―
弟は、真っ黒に焼け焦げていた。その原因は、猛炎の魔術によるものだった。それは、魔術痕によって探偵だけが知った。そして、もう一つ分かったことがある。
「――あのおっさんに魔術をかけた奴と、この屋敷中に封印を施した奴は同じだ」
六人もいるのに、奇妙に静まり返った部屋。そこで告げられたのは、絶望以外にない言葉。探偵は魔術痕について改めて説明してから、それを述べた。
「そんな……でも、いつの間に? 私達は、彼と別れてからもずっと一緒にいました。お互いがお互いを監視しながら……本来魔法の類は、対象に手を向けなければ発動しないのでは?」
「嗚呼、だが、知っているか? 独自に魔術の研究開発をする者達のことを」
「知ってるわ」
咽び泣く娘の頭を撫でながら、母親は口を開いた。
「へぇ、意外だな」
「意外で悪かったわね。職業柄、色んな奴と関わる機会が多いのよ。ほとんどが勘違いした男ばかりだけど、中には本物がいるわ。例えば、トニー。彼は、性格は最悪だったけれど経済力は確かだった。色んな事業を展開していたしね。その事業の一つに、魔術開発があった。彼は饒舌に語っていたわ。俺は、いずれ目だけで魔術を発動させてやる。その開発費で、さらに儲けてやるってね」
「詳しいな」
「客の言うことは、どんなにくだらないことでも覚えておいてあげるの。はした金でも、積もれば山。場合によって、一攫千金にだって成り得るもの。それで、探偵さん? この情報で何か分かったことは?」
彼女に問いかけに、探偵は腕を組んで悩む様子を見せる。エメが、弟の去り際に睨んでいたことを探偵は知らない。それを知っているのは少年だけだが、彼には誰の言葉も届いていない。
「状況的に考えて、最初と第二の殺人現場を見つけた者が怪しい」
「何よ、私達が怪しいって言うの!? 折角、色々喋ってやったのに!」
「情報が少な過ぎる。だから、一つ試したい。それぞれ魔術を使ってくれ。使い慣れているもので構わない、窓に向かって発動させて欲しい。確かめられるものには、色々限界があるんだけど。いいよね? お互い、すっきりしたいだろう」
探偵のその言葉を聞いて、エメは唇を強く噛み締める。苛立ちと悔しさを押し殺す為だ。そして、それを悟られないよう、優しく彼を見つめた。
『魔術痕は、あらゆる事柄において証拠になる。ただ、杖と手で発動されたものは形が少し変わる。同一人物が使ったものかそうでないか、判断するにはじっくりと観察しなければ分からない。さっき、おばさんが言った眼力……今まで一度も見たこともないし、恐らく研究段階のもので世には出回っていないはず。となると、ますます判断しにくいな。あぁ、ちゃんと勉強しとかねぇとこういう時に困るんだよ』
犯人を明らかにしたいというおおよその意見が一致し、残された者達は一握の希望をかけて魔術を使用するのだった。




