抉り出される恐怖
―ドミニク劇場 夜―
どれだけ調べても、部屋の様子は遺体があったこと以外何も変わらなかった。外に繋がりそうな部分は、全て魔術がかけられている。それは、脱出の手立てを探す者達の心を蝕んだ。
「駄目だ、ここの窓もしっかりと封印されてる。魔術痕も一緒だ。こりゃ、マジで参ったな」
探偵の独り言が、近くにいた少年の耳に届く。すると、彼はぐったりとその場にへたり込んだ。
「坊ちゃん!」
それに気付いた執事が、慌てて彼の傍に駆け寄る。
『どうして……こんなことに? 父さんはいつ死んだんだ? 奇妙な招待状、それが父さんを殺した犯人が送りつけた物だったとしたら? 殺す為に、俺達は……』
「ううっ!」
「大丈夫ですか?」
吐き気を催した彼の背を、優しく執事は撫でる。
「無理だ……殺される? 殺されるなんて嫌だ。死にたくない……俺は何もしてないじゃないか」
「坊ちゃん、何も殺されると決まった訳では……」
「死にたくない……死にたくない……」
執事の言葉は、届かない。少年の恐怖は、探すことで誤魔化していた気持ちを抉り出していく。ある者は手をとめ、ある者は同じように吐き気を催し、ある者はその場で涙を流す。その中で探偵と執事だけが、冷静さを保っていた。
「ね、ねぇ……私、ちょっと気分を変えたい。お願い、ママ。散歩についてきて……」
娘は口を押さえながら、そう懇願した。洋館に訪れた時の威勢はどこへやら、すっかり萎れていた。
「そうね、どうせ何も見つけられそうにもないし。いいでしょう? リフレッシュくらいしても」
「いいぜ? でも、すっきりしたらすぐに戻って来いよ」
「そんなこと分かってるわ。女二人で、こんな物騒な場所を長々とうろつきたくない。すぐに戻るわ。行きましょう」
「う、うん……」
そう言って、母親は娘を支えながら部屋を後にした。それから、およそ数分後のことだった。
「「いやぁあああああああああっ!」」
その明らかにただ事ではない悲鳴に、彼らの雰囲気がさらに張り詰めた。
「何? 何が起こったの?」
少年は消え入るような声で、ドアの方向を見つめる。
「嫌な予感しかしねぇ。ちょっと行ってきていいか? 俺のことを信用出来ないのなら、一緒について来て貰いたいが」
「いえ、私は坊ちゃんと共にここにおります。何にせよ、この状態では……それに、探偵さんのことは信用に足る人物であると直感的本能的に感じるのです。ですから、お願い致します」
執事の言葉に、探偵は僅かに表情を緩めた。
「ありがとう。そう言って貰えて、嬉しいよ」
『信用に足るか……素直にテンション上がるぜ』
しかし、その喜びは当然長くは続かない。それを、掻き消すほどの衝撃――変わり果てた姿になった男を目にすることになってしまったのだから。




