表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
412/768

虚勢

―ドミニク劇場 夜―

「――何事ですか!? っ!?」


 悲鳴を聞いて現れたエメは、両手で口を覆い隠して目を見開く。広大な部屋の一室の中央に置かれた椅子に紐でぐるぐるに縛られ、ぐったりと生気なく座る屋敷の主人の姿があった。見れば分かる、既に彼は死んでいると。



「お、おい……これは、どういうことだよ」

「そんなの、こっちが聞きたいくらいだわ。ど、どうして死んでるの……」

「ママ……怖いよ」

「嘘だろ? 父さん……」

「このようなことが、何故……」


 屋敷に閉じ込められた招待客は、口々に絶望に満ちた言葉を漏らす。その中で、唯一平常心を探偵は保っていた。そして、彼は疑いの眼差しを来たばかりのエメに向けた。


「……どこに行ってたんすか?」

「え、えぇ? 私は、トニーを探していただけです。皆で手分けをして探そうと仰ったのは、探偵さんじゃありませんか? この状況で、私だけがいなかったことが怪しいと思われるかもしれませんが……ね。辺りが何やら騒がしいとは思ってはいましたが……元気な方々が多いでしょう? ですから、特別気にしておりませんでしたの。しかし、流石に悲鳴が聞こえれば気にもかかります。たった、それだけのことで疑われるのは心外です……ぅう」


 疑いを逸らす為にエメも必死だ。見に覚えもなく不審に思われた挙句に、遺体まで見て傷付く女性の演技をする演技をしなければならない。本来なら、あまりにも難しい要求だ。しかし、今の僕には自然に出来た。


「酷いですわ……」


 偽る為の涙が溢れた。泣く素振りだけでもいいと言われていたのに、自分でも驚きだった。


「え、えっと……いや、そんなつもりで聞いた訳じゃねぇんだよ。職業病というか、こうなった以上とりあえず聞かねぇとって……」

「怪しいのは、この屋敷にいる以上全員ですよ。無論、探偵である貴方も」

「そりゃそうだが……すまん」


 申し訳なさそうに、彼は頭を下げた。


「い、いえ……私の方こそ、年甲斐もなく泣いてしまって申し訳ありません」


 涙を流し、声を震わせながらエメも頭を下げる。


「とにかく、全員でこの部屋を調べましょう。全員で全員を監視しながら、抜かりなく調べるのです。平等に私達は怪しい。ですが、調べないことには事は明らかになりません。閉じ込められてしまっていますしね」

「え、閉じ込め……!?」


 騒動の場にいなかった彼女は、知らなくて当然。だからこそ、初耳であるようなリアクションをしなければならなかった。


「えぇ、入念に準備した何者かによって中から閉じ込められました。しかも、先ほどのことです。つまり、犯人はこの中にいると考えるのが妥当でしょうね。無関係の者が勝手に侵入し、入念に準備出来るほどセキュリティは甘くありませんし」

「そ、そんな……」

「恐怖に震えていれば、思うがままです。ですから――」

「ふざっけんなぁ! 俺様は、もうこんな所に長居出来ねぇ! 人殺しと一緒!? ざけんなよ、お断りだ! 俺様は脱出の方法を探す。調べたい奴らは、勝手に調べとけ!」


 虚勢を張り、彼は一人部屋の前から去っていく。その姿を、エメは鬼のような形相で睨んだ。それに、少年が気付き身震いをする。


『ひえぇぇ……! 泣きながら、あんなに怖い顔をするなんて。女の人って怖っ』


「お待ち下さいっ!」


 執事がとめようとしたが、それを厚化粧の女性が制する。


「やめときなさい。何言っても無駄だわ。ああいう男はね」

「おばさんに同意するぜ。単独行動は危険だ。この部屋はきっと鍵に繋がる物があるはずだ。調べるぞ」

「誰がおば――」

「死体がある中探すなんて嫌! せめて、移動させて!」


 少女が壁にもたれかかって、顔を手で覆い隠す。探偵は憂いを帯びた表情で頭を掻き、口を開いた。


「はぁ……しゃーねぇな。分かったよ。じゃあ、誰か手伝ってくれる人~」


 手を上げたのは、執事だけだった。やっぱりといった様子で、探偵は失笑した。


「ハッ。じゃ、手伝ってくれ。部屋のクローゼットにでも移動させとこう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ