表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
410/768

犯人は誰?

―アリア ドミニク劇場 夜―

 場面は、重要な局面へと移行していた。窓が鍵もかかっていないのに、開かなかったことがきっかけだ。その騒ぎを聞きつけ、巽以外の役が集まっていた。


「――開かないっ! 開かないですっ!」


 少年が必死にドアに体当たりを繰り返すも、開く気配すら見せない。


「こっちも駄目です、窓を割ろうとしたんですが……まるで、地面を叩いているみたいで。駄目でした。一体、これは……」


 窓前に立っていた執事も、打つ手なしという様子で頭を垂れる。


「どうなってんだよ、これはよぉっ!?」


 弟が力任せに窓を叩いても、びくともしなかった。


「まさか……閉じ込められたって言うの? ママ、どうするの?」


 娘が、真っ白に塗りたくられた顔を真っ青にして母親を見つめる。


「どうにかすんのよ! こんな所で、閉じ込められるなんて最悪よ!」


 母親は担ぎ上げた椅子で、何度も何度も窓を叩き割ろうとする。しかし、虚しい音が響くだけで変化は一つも見られなかった。

 すると、一人だけ冷静に至る所を見回っていた探偵が口を開いた。


「魔術……やっぱり、魔術が使われてんぜ。この屋敷」

「魔術? どうして、それが?」


 少年は、彼に詰め寄る。


「魔法とか魔術が使われた痕跡って、よ~く見たら分かるんだ。それが大きいものであればあるほど、はっきりと」

「……んん? 俺には、よく分かりませんが」


 彼の指差す位置を見て、少年は首を傾げる。


(魔術痕は、昔は目で見て確かめてたって授業で言ってたな。でも、それはそう簡単には見つけることは出来ない。だから、当時はそれを見分けるプロがいたんだよね。その痕跡だけで、どんな魔法や魔術が使われたのかを見分けることが出来た。となると、この探偵さんも……?)


「ま~分かんなくてもいいよ。でもさ、こんな窓すら壊れなくてドアすら開かないなんておかしいでしょ。普通にやって出来ることじゃない。そう考えると、魔術とかの類しかなくね?」

「なくね? じゃねーよ。それを、どうにかしろってんだよ!」

「無理だね。強固な封印の魔術だ。見れる限り全部見てみたけど、少しでも人が出れそうな部分はこれが施されてるよ。中からね。入念に準備されてたとしか思えねぇ。しかも、それが発動されたのはついさっき。ここまで強いってなると、時限式かも知れんな。もっと色々見ないと、確かなことは言えんが。ま、永遠にこのままってことはない。一週間もあれば、解放されるだろうぜ」


 彼のその言葉に、場はひっそりと静まり返る。あれほど騒ぎ続けていたのが、嘘のように。そして、その沈黙を執事が破った。


「つまり、私達は何者かによって意図的に拘束されている状態だということですか?」

「そうだな」

「一体誰が何の為に?」

「さぁ……な。まぁ、一番怪しいのは旦那様だよな。普段家族すら入れたがらないのに、招待状を送りつけてここに皆様を呼び出してるんだからよ」

「何言ってんだ! 兄貴は、簡単な魔法すらまともに使えない男だぞ? そんな兄貴が、時限式の封印なんて出来る訳がねぇよ。ふざけんな! 中からでついさっきってことは……この中にいる誰かがやったってことだろうがよ、あぁん!?」


 火山のように怒りを爆発させ、弟は近くにあった机を思いっきり蹴飛ばした。


「へぇ、珍しい。金持ちなら、十分過ぎるくらい教育を受けてきたはずだろ?」

「それでもどうにもならねぇくらいだったんだ。でも、兄貴にはそれを無視出来るくらいの金稼ぎの才能があった」

「じゃ、じゃあ……一体誰がこんなことを」


 少年は、生まれたての小鹿のように体を震わせながら周囲の人達の顔を順番に見ていく。


「待ってよ! そもそも、私とママはさっき来たばっかりなのよ。入念に準備なんて出来る訳ないじゃない!」

「それを言ったら、皆そうなる。言われて、ついさっき来たってね。だけど、そうじゃねぇ。ま、全員がまだ揃ってないんだ。ここで犯人探しをしても野暮だろうよ」

「確かに、あのご婦人もいらっしゃいませんし、旦那様もまだ……」


 執事がそう言い放った瞬間、不穏な音楽が流れ始めた。照明も徐々に落とされていく。とても大事なシーン、しっかりと目に焼き付けようと思っていたのだが――。


「ふわぁぁあ……」


 フードの彼の欠伸の声に、現実に戻される。劇が始まる前に言われた、あの不快な言葉を思い出してしまう。気にしてはいけないと思うのだが、つい視線を向けてしまった。

 見てみると、ただ本当に彼はつまらなそうにしていた。興味がないのに、彼は何故ここにいるのか……不思議であった。


(駄目駄目。考えない方がいいわ。私は興味があるんだから。うん)


 そして、私は気持ちを切り替えて再び舞台に視線を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ