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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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舞台袖から

―ドミニク劇場 夜―

 僕を除いて、全ての役者達は舞台袖へとはけていく。そんな彼らの後姿を見送りながら、舞台中央へと立つ。


『厄介なことになりました。しかし……』


 心の声として、事前に録音していた声が流される。僕は、それに合わせて悩む素振りを見せる。


『こんなことで戸惑っているようでは、私はまだまだ未熟です』


 そして、一人で小さく微笑んで舞台袖へと向かう。そこには、出番を待つ役者達がいた。僕がそこに加わると、皆が静かに笑顔で出迎えてくれた。

 そのタイミングで、僕と入れ替わるようにして愛人役とその娘役の人達が出て行く。出番はしばらく先だが、皆がこう集まって集中しているのを見ると、僕もそうしないといけないと感じてしまう。


「ママぁ、疲れたぁ」

「だるいわねぇ。なぁんであの男の為に、こんなに私達が頑張らないといけないのか……」

「見つけたら、さっさとお金貰って帰ろうよ。手数料と迷惑料」

「そうね、あ~ぁ。あんな男、いっそ殺して財産全部貰いたいくらいよ」

「キャハハハ! ママ、こっわぁ~! ま、貰えなくても適当に何か持っていけば十分お金になるでしょ。今までみたいに!」


 娘が手を叩いて、大声で笑う。それをきっかけに、探偵役の彼が舞台袖から出て行く。物陰に隠れ、こっそりと彼女達の話を聞いているという設定だ。


『とんでもねぇ奴らだな。よくもまぁ、堂々と……おっかねぇ』


 わざとらしく身を震わせた後、探偵は息を吐いて物陰から歩み出る。


「おいおい、こんな所で駄弁っている場合か? てかよぅ、そんな危険な話をしてたら、万が一の時に疑われちまうぜ?」

「盗み聞き? 趣味悪いわね。探偵さん」

「悪いねぇ、おばさん。でも、聞こえてきたんだからしょうがねぇだろ。あとさ、その格好……色々とキツイぜ。親子揃って目も当てられねぇぜ。うし、じゃ、俺行くわ!」

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」


 女性の制止も聞かず、探偵はそのままいなくなってしまった。言いたいことを言えて満足した様子で、スキップをしながら。

 そんなシーンを見ながら、僕は出番が来るのを待っていた。すると、背後から誰かが近寄ってくる気配を感じ振り向くと、そこには執事役の老人がいた。彼は、小声で僕に話しかける。


「貴方の出番は、もう少し先では?」

「はい……」

「ずっと立ちっぱなしだと疲れますよ。そこに椅子があるので、休んでいて下さい。特に、貴方の役はハードなんですから」

「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」


(役と同じで紳士的な人なんだなぁ)


 正直、彼の言葉には救われた。周囲の人達が舞台袖で立って集中しているのに、僕だけ座って出番を待っていては駄目なのではないかと思っていたから。


「あ、ごめん。気付かなかった……言ってあげれば良かったね」

「大事な大事な役者さんだ、誰よりも大切にしてあげないと。そういうのは、座長が気付くべきだろうによ」

「おぉ、うっかりって奴だ。悪い」


 すると、同じように舞台袖にいた役者達も小声で口々に、僕が座ることを受容してくれた。気遣わせてしまった挙句、謝罪の言葉まで受け取ってしまった。下手に考え過ぎない方が良かったかもしれない。過去を後悔しても仕方がないが。


「いえ、僕の方こそ気遣わせてしまって……」

「いいって。っと、俺達の出番だ。よっしゃ、気合入れて行くぞ」


 次は、僕の役以外の者達が言い争いになって疑心暗鬼になるシーンだ。原因は、魔術によって屋敷の外に出られなくなり、弟がその犯人探しを始めてしまうから。


(いよいよ、物語の中盤。緊張感がある大切なシーン、役に入り込もう。邪念を捨て、それだけに意識を――)

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