招かれた客
―ドミニク劇場 夜―
洋館の中へ入り、彼らは屋敷の主人を探した。しかし、どこを探しても彼の姿は見当たらない。そんな中、屋敷に新たな客人達が登場する。
「ちょっと~誰かいないの?」
「ママぁ、どうせまだ門前払いされるだけだって。さっさと帰ろうよ。あんなくそ親父の面を拝んでも、不幸になるだけだっての」
厚化粧で布切れ一枚まとっただけのような女性と少女が、やかましくライトアップされた舞台に現れる。それに一番に気付いたのは、探偵だった。
「誰っすか?」
「誰って、あんたの方こそ誰よ。使用人って格好じゃないけど、執事は? 執事はどこにいるの?」
特に厚化粧の女性が、高圧的に探偵に詰め寄った。
「俺は探偵っすよ。依頼を受けて、ちゃんとここにいるんす。ねぇ!? 坊ちゃん!」
そんな気迫にも彼は負けじと応じ、少し離れた位置にいる少年に呼びかける。
「は~い? って、おぉ!? 誰!?」
扉の陰から、ひょっこりと顔を覗かせた少年は目を見開く。
「うわ、なんか幸薄そうな奴出てきた。なんで、今日はこんなにやかましいの? ママ、やっぱり帰ろうよ。あの男が招待状をよこす訳ないって」
「招待状……貴方達も、それを」
騒ぎを聞きつけ、執事が神妙な様子で現れる。
「あ、やっと出てきた。ねぇ、これどういうこと? なんで、知らない奴がこんなにいる訳? ママとわざわざここに来たのに、招待状送った張本人の出迎えなしっておかしくない?」
「探偵のカイン様を除いて、ここにいる全員が貴方と同じ招待状を旦那様から頂きました。私は休暇を取っていたので、詳細は分からないのです。ですから、現在旦那様を探している次第です」
「えぇ……私も、彼から頂きました。貴方達が貰ったのも、これと同じですよね?」
そして、僕は招待状を右手に持ち、観客にも見えるようにゆっくりと手を動かす。そこで初めて、僕は観客席の様子をしっかりと見た。席は、人でいっぱいだった。右から左へ、徐々に視線を動かしていくと――中央の最前列にアリアがいることに気が付いた。真剣な表情で、舞台を見ている。
その一方で、隣にいる不審な人物はつまらなそうに天を仰いでいた。アリアを見ていると、必然的に目に入る。だから、僕は遠くを見ることにした。
「ふ~ん。じゃあ、その招待状の送り主はどこで何しているのよ。歓迎する側のくせに、姿も見せずにかくれんぼ? いい年して、何をしているのかしらね」
厚化粧の女性が、不機嫌そうに腕を組む。
「普段は、私達のことなんて歓迎もしないくせに。都合がいいわよ」
「で? あんたらは何者?」
探偵は、突然現れた女性達にそう尋ねる。
「私は、あの男の愛人っていう位置付けなのかしら。そして、この子は娘」
「あ、あ……愛人っ!? 娘ぇっ!?」
それを聞いて、少年は顔の穴という穴を開く。目の玉が落ちてきそうなほど目は開かれ、鼻の穴も広がり、顎が壊れるのではないかと思うくらいに口が開かれていた。
「え、えっ、娘さんって……とう、父さんの? 知らなかったよ、そんなの……」
「あいつは、飽きるとすぐに捨てる。そういう男。こっちはお金に困ってるっていうのに。それなのに、突然招待状? ふざけてるわよ」
「ハハハ……ハッハ。だから、俺も……知らなかったぁ~……」
状況が全く飲み込めていない少年が頭を掻きながら、ぐるぐると歩き回る。
「愛人がいるというのは、聞いたことがあります。お金ばかり要求するドブネズミだと。冗談であって欲しいと願っていました。真実だったなんて、ショックです。まさか、彼にそんな一面があったなんて……友人として情けなく思います」
目を閉じて、悔しさが伝わるように手を握り締めて唇をギュッと噛む。
「まぁまぁ……そういうことを、今ここで話しても仕方ないっしょ。とにかく、ご主人さんを見つけ出さないとね」
混沌としていた場を鎮めるように、探偵が割って入った。
「そうですね、それが賢明でしょう。人手は多い方がいいですし……見つけない限り、思いは晴れることはありませんから」
それに執事も乗っかり、場は一応収まった。それぞれ仕方ないといった様子で、屋敷の主人を探そうと動き出した時だった。新たな来客を告げるチャイムの音が鳴り響いた。




