必然の再会
―ドミニク劇場 夜―
舞台袖、そろそろ僕の出番。探偵と少年が父親から送られてきたであろう招待状に従い、立派ではあるがどこか不気味な雰囲気に包まれた洋館へと訪れるシーンだ。
「へ~立派なもんだ」
「久しぶりに来ましたよ。普段は絶対に入れてくれないですから。実の親子なのに……俺の家に入ってくるなって。だから、俺はばあちゃんと二人暮らしを物心ついてからずっとしてるんです」
「ふ~ん、とんでもないねぇ。そんな父親が招待状か、なんか嫌な予感しかしないねぇ」
「怖いんですよ。だから、調査を依頼したくて」
「OKOK、任せろよ。門前払いをされねぇといいが」
一通りの会話を終え、彼らが門を潜り抜けて屋敷の中へと入っていこうとする。
(よし)
僕は一度大きく息を吐いて、ゆったりとしたペースで舞台上に歩んでいく。優雅に気品を漂わせる、高貴な女性として。僕に合わせてスポットライトが動く。遅くも速くもなり過ぎないよう、僕は慎重に歩いた。
「あら、貴方達は?」
そして立ち止まり、招待状を手に持って、あざとく小首を傾げる。
「もしかして、貴方も招待状を……」
「えぇ!? 俺以外にも貰った人がいるんだ! じゃ、じゃあ貴方は父とどういうご関係で!?」
少年は興味津々に、探偵は訝しそうにこちらをじっと見つめる。
「ウフフ……友人です、パーティで知り合いまして。ご存知なかったでしょうか?」
好奇の目にも、疑惑の目にも動じない様子を見せながら彼らに歩み寄っていく。
「俺は、父さんとあまり長い時間を一緒に過ごしたことがないから……ごめんなさい」
「逆に、貴方は知っていたんです?」
探偵は、疑惑の目を向けたまま問いかける。
「あらあら、心を許した彼は何でも話してくれるわ。そう、なんでもね……」
そして、怪しく笑う。それに対し、探偵が何かを言いかけた時――。
「坊ちゃん!」
しわがれた、しかしどこか気品も感じる声がそれを阻んだ。彼の声に、少年とエメが素早く反応する。
「あ、久しぶり!」
少年は嬉しそうに飛び跳ねながら、手を振る。思わず反応してしまったエメは、慌てて顔を伏せた。その様子が、余計に探偵の疑心をくすぐった。しかし、眉間にしわを寄せたままで彼は深く追求しようとはしなかった。
「お久しぶりでございます、坊ちゃん。お元気そうですね。おや、坊ちゃんとお隣の貴婦人も旦那様から招待状を?」
現れたのは燕尾服に身を包んだ白髪の男性、ここの屋敷の主人の執事だ。
「君も貰ったの? なんで? 君はいつも一緒に父さんといるじゃないか、招待されるとかされないとかそういう関係じゃないだろう?」
そう、本来なら招待客ではなく、訪れた客人達を出迎える立場であるはずだ。その指摘に対し、彼は困った表情で首を捻る。
「何やら用があるようでして、休暇を取るようにとご命令を。心配ではありますが、旦那様の性格も考えるとここはお言葉に甘えた方がいいと判断しました。ですか、急に自宅にこの招待状が……不思議にも思いましたし、気にもかかったので戻って参りました」
彼は朗らかな笑みを少年に向けた後、付近に立っていた探偵達に視線を向け表情を引き締める。
「失礼を承知でお伺い致しますが、貴方達は?」
「俺は、近くで探偵やってるカインってもんっすわ。招待状について、坊ちゃんに調査依頼を受けたんで。不審者じゃないっすよ」
「私は……彼の友人です。数ヶ月前に、パーティで知り合いましたの。ですが、ここに来たのは初めてで……」
「なるほど、招待状を貰ってここに来たのは、私と坊ちゃんとそこのご婦人だけということですね。ふむ……とりあえず、中に入りませんか? 旦那様のご様子が気になりますので」
そして、その執事の提案を受け入れ、全員案内されるままに独特な雰囲気をかもしだす屋敷へと入っていくのだった。




