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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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原石を見つけた

―ドミニク劇場 夜―

 最初のシーンが終わり、僕は舞台裏で衣装チェンジを行っていた。結っていたカツラの髪を下ろし、急いで巻かれていく。


(結構出来たかな……まだ、観客席が見えなかったからどうにかなったけど。う~不自然じゃなかったかな?)


 舞台に立つと、自分が吹き飛び演じることに集中出来た。けれど、それが違和感なく出来ていたかは疑問が残る。誰かに聞きたいけれど、隣で忙しそうにしている衣装係の女性に聞く勇気はない。一生懸命だろうし、邪魔をしてはいけないだろう。


(次は完全に観客席が見える。だから、ちゃんと集中して……エメそのものにならなければ。素人だとか、練習時間が少なかったなんてことは観客には関係ない。甘えちゃ駄目だ、やるって決めた。出来る、出来る……)


 緊張し高鳴り始める胸を静める為、何度も自分に言い聞かせる。僕はすぐ負の感情に囚われて、それしか考えられなくなる。だから、心の奥底から湧き上がってくる負の感情を前向きな言葉で何とか押しやっていた。


「髪型セット終わり! 次は衣装ね。ほら、立って」

「は、はいっ!」


 思考の世界に落ちていた僕は、彼女の言葉に我に返って慌てて立ち上がる。


「ぼんやりしてない? 大丈夫? 緊張してるの?」


 すると、そんな様子を見て衣装係の女性が心配そうに声をかけてきた。


「気持ちを落ち着かせていたんです。さっきと、観客を目の前にして演技をするのとでは少し違うんじゃないかって思って……舞台に立って緊張しないように」

「なるほどね。でも、さっき声ちょっと聞こえたけど……かなり、上手だったよ。本当に素人さん? 経験者でしょ。どこで何やってたの?」


 先ほどの格好よりも質素なワンピースを彼女は手に取って、僕の体に当てる。


「いや、本当に何も……」

「えぇーっ!? マジで? 才能が勿体ないよ! へ~座長さんも、とんでもないもんを代役に持ってきたなぁ。最初は、うちのエースだった子の代役をそこら辺の素人にさせるなんて……って思ってたんだけど、原石だったなんて。しかも、雰囲気も似てるし? 着痩せするタイプみたいだし」


 彼女の反応から察するに、どうやら僕の演技に問題はなかったらしい。お陰で少し安心出来た。


「本当、色々とんでもないけど……皆必死なの。だから、どうか我が侭に付き合って欲しい。さて、長々とこんな話をしている場合じゃないわね。君には、色々と小細工をしないといけないし」

「小細工?」

「そうそう、正体を明かす時にその体をしっかりと生かさないと。台本にも書いてあったでしょ?」

「破る……って書いてありましたね」


 けれど、いくらなんでもそれは難しいように思える。服は破る為に作られている訳ではないだろうし、ここで着られている衣装は見るからに丈夫そうだ。今、彼女が手に持っているものも然りだ。


「そうそう、それをしないといけないからさ。人間の技術でも出来るけど、魔術とかのが役者もこっちも楽。そういう仕込みがしてあるこの衣装、一応着ても違和感ないか試してみて。あったら、ちょっと魔術工夫するから」

「は、はぁ……」


 そして、僕は彼女から衣装を受け取った――のだが。


「何?」


 彼女は、僕の前からじっと構えて動かない。


「いや、その……」

「何よ、私はあんたを役者として見てるのよ。あんたの裸体に興味はない。衣装と、あんたの体がちゃんと合うかどうかだけが見たいのよ。ちゃちゃっと着替えるくらいしなさい。時間ないわよ、もう探偵さん達のシーンが終わっちゃう」


 あまり親しくない女性の前で、裸に等しい状態に本当はなりたくはないが迷っている暇はない。


(ええぃっ!)


 僕は意を決し、恐る恐る着替えていったのだった。

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