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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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小さな劇団の最後

―アリア ドミニク劇場 夜―

 闇が全て覆い隠す刻、ドミニク劇場は開場した。この時が訪れるまで私は、普段役者さん達が使う楽屋で時間を潰していた。練習風景を見ていてもいいと言われたが、それは本番までの楽しみに取っておきたかった。折角貰ったチケットだ。物語の核心はほぼほぼ知ってしまっているけれど、それでも構わなかった。その核心までの流れを、客席から見届けたかったから。


(結構、沢山のお客さんが来てるんだなぁ)


 客席は、ほぼ埋まっていた。見た所、観客の年齢層は高めだ。私は、チケットに書かれた座席番号を確認する。


(えっと……Sの15か。って、一番前のほとんど真ん中!? こんないい席のチケットを貰って良かったのかな……)


 一番前の真ん中なんて、役者さん達の息遣いや迫力を身近に感じられる場所。私には勿体ないくらいだ。それを迷いなくくれた座長さんに感謝しながら、私はその席に着いた。


(もう少しで始まるなぁ。う~ドキドキする)


 巽がどれくらい演技が出来るのか、この短期間で違和感なく出来るのか、偉そうにも心配してしまう自分がいた。彼なら、きっと大丈夫だと思っているけれど、不安は簡単に掻き消せないものだ。


「お~い、お姉さん、なんか緊張してる?」


 そんな思いに駆られていると、隣から突然声をかけられた。声のした方へ顔を向けると、そこには真っ黒なフードの奥から黄色い瞳を光らせる少年がいた。その鋭い視線は、まるで私の正体を見透かしているようで怖かった。


「こ、こういうのを見るのは初めてだから……えっと……?」

「あぁ、ごめん。つい、声をかけちゃった。お姉さん、綺麗だから。不安げな表情も絵になるってね」

「……そんなに見ないで下さい。恥ずかしいです」


 彼は、私を凝視していた。そもそも、一人でいる時に声をかけられるなんて経験がほぼない。だから、怖かった。一人でいる時、私には存在感が何故かないらしい。私から声をかけないと、存在を認識して貰えないのだ。


「ミャハハ……ま、俺も初めてだよ。行けって言われて来たんだ。あっ、そうそう聞いてよ。なんか、今日ここで演技する人たちの劇団は終わりなんだって」


 誰かに話したくて仕方がなかったと言わんばかりの表情で、座席の肘掛けに彼は身を乗り出す。


「え……?」

「あれ、知らない? これが最後の公演なんだよぉ。ここってさ、実力はあるらしいんだけど華がないんだって。だから、誰も彼もここで終わっちゃったみたい。この中ホールもスッカスカで。でも、最後ってなったらこんなに人が来た。それでも満席じゃないみたいだけどね。ミャハハハハッ……♪ こいつらがずっと来てくれてたら、この劇団の人達もずっと夢を追い続けてられたのに……最後って、すっげぇブランドだよな。ま、そうでもしないと客も来ないってだっさいよなぁ」


 堪え切れない笑いに、彼は表情を歪める。彼には悪気なんてない。真っ直ぐに思ったままを口に出している。だけど――。


「貴方に何が分かるんですかっ!」


 許せなかった。彼らの努力と思いを嗤うのが。絶対に成功させたいという思いを、無茶苦茶なやり方だったけれどしっかりと私は見ていたから。だから、思わず声を荒げてしまった。


「えぇ? どうしてお姉さん、怒ってるの? 俺はさ、本当のことを言っただけなのに。わっかんないなぁ――」


 すると、開演ブザーがホール内で大きく響き渡った。それによって、必然的に私達の会話は切られた。客席の照明は落ちて、舞台上以外は真っ暗になる。

 待ち侘びていた時なのに、隣に彼がいるのが気まずくて、子供相手に怒ってしまったのが情けなくて、一刻も早く立ち去りたい――そんな気分になってしまった。

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