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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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流れを頭に叩き込む

―ドミニク劇場 昼―

 僕は一人、渡された台本を頭に叩き込もうと必死に目を通していた。夕方くらいになったら、僕も通しに参加してくれと言われた。要求が酷い。さっき台本を渡されたばかりなのに、台詞が減らされた形跡すらない。団員も、あれ以降何も言っていない。結局、類は友を呼ぶということだ。

 今にも逃げ出したい気持ちはあった。けれど、それではアリアに顔向けが出来ない。だから、夜まで時間があって良かったと前向きに捉えることで、何とかこの場に留まって台本を読んでいた。


(頑張れ……頑張れ、僕なら出来る。英語だって短期間で覚えられた。出来る、出来るさ……やるんだ)


 台詞は覚えられていないが、話の流れと僕が出るそれぞれの場面での注意点については把握した。

 

 最初、真っ暗なシーンから話は始まる。観客席からは、シルエットしか見えないようになっているらしい。男性と女性のシルエットしか見えないから、声と動作だけで分かるような演技をしなければならないという。


(ここで、僕が女性っぽい声を出しながら背後から男性に歩み寄る。そして、油断している隙を狙って……彼の首を絞めるんだ)


 男性が苦しみ悶え、その後絶命する――それまでが、最初のシーン。それから探偵の事務所のセットが用意され、父の名前で不審な招待状が届いたから調べて欲しいと一人の少年が相談に来るシーンに切り替わる。そして、非現実的な探偵の仕事が来て面白いし、それを警察に奪われる訳にはいかないと依頼を受ける。


(この間に、僕は髪型と服装を少し変えないといけないんだよね)


 次に始まるシーン、それで僕の出番はすぐに来る。不気味な洋館の門の前に立つ探偵と少年に声をかける女性として。この時もまた、声を少し変えなければならない。これは、地声でいいと言われた。少し不快だったが、受けとめるしかなかった。僕の裁量で使い分けなど、出来る気もしなかったから。

 

(何食わぬ顔で、自分も招待状を受け取った父親の友人であると言う。僕の役は、少年と知り合いではない――そこで、探偵達は家族だけに来た訳ではないと悟るんだ。その後も、続々と招待状を受け取った役が現れる。最終的に集まった人数は、探偵を除いて六人。父親の愛人を自称する女性とその娘、父親の弟、父親の執事……それぞれが顔を合わせる、いよいよ物語が動き始める。それで、僕の台詞も増えていく……はぁああ)


 招待状を見比べるシーン、招待客同士が疑心暗鬼になるシーン、ついに父親の死体を見つけるシーン、推理する探偵のシーン、激怒して帰ったはずの弟が遺体として発見されるシーン、それをきっかけとするように続々と殺されていく招待客達。

 そして、探偵と少年、父親と友人を名乗る女性、執事だけになって――ついに探偵が推理を披露し、言い逃れが出来ないくらいに僕の役を追い詰める。そして、あらゆる逃げ道を潰された末に、ようやく女性は正体を明らかにする。


(ここで、服を破って――男の体であることを視覚的に訴える。そして、声色も出来る限り不自然にならないように低く……)


 涙を流しながら、憎悪の感情を露に生き残った者達に訴える。己の正しさを証明するように。しかし、歪んだ思いは届くことはなく、探偵に罪を償うように諭される。


(そこで、殺人鬼は狂気に歪んだ笑みを浮かべながら一度頷く。だけど、その償いは真っ当な方法じゃなくて――)


「よおっ! 調子はどうだ!」


 台本を読み、流れを確認していると、ドアの陰からひょっこりと座長が笑みを浮かべて覗き込んできていた。

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