僕の目の秘密
―学校 朝―
朝九時からの講義に備え、僕は教室に入って机に伏せていた。徹夜をした日は、いつも以上のしんどさだ。頭から響くような痛み、勉強なんて出来る状況ではない。
だからと言って、休んでもいけない。休んだら、その情報が上まで伝達され、最終的には僕の国にまで届いてしまうだろう。こんなくだらないことで、皆に心配をかけたくない。
そもそも、学校が始まってまだ一週間だ。こんなことでへこたれていては、これからの四年間を生きていけない。
(こんな時に限って十六時まであるんだよね。しかも、夜からはレストラン……そして、また皿を)
今日は、何枚皿を割ることになるのだろうか。割りたくて割っている訳ではない。気付いたら、いつの間にか割っているのだ。割れるあの音で、僕は意識を取り戻す。そして、目の前の惨状にいつも絶望している。
(……もっと稼がないといけないけど、トーマスさんに迷惑をかけてしまう。もっと誰かに迷惑をかけない程度で、学生に優しく稼げる仕事はないだろうか?)
「おはよう!」
眠い頭でこれからのことを考えていると、突然上の方から明るい声がした。その声は、どこかで聞いた覚えがあった。
「ん?」
ゆっくりと体を起こすと、そこに立っていたのは金髪の青年だった。
「おはよう!」
彼は、僕とは対照的に明るい笑顔を浮かべている。
「おはよう……えっと」
彼を見るのは初めてではない。入学式の新入生挨拶をしたのが、彼だったから。よく覚えている。忘れるはずもない。確か名は――。
「リアム=ベレスフォード! リアムって呼んで!」
「あ、あぁ……そうだったね」
どうして、リアムは急に僕に話しかけてきたのだろう。この教室には、僕以外にも大勢の人がいる。こんな机に伏せて眠っているような奴を、何故わざわざ選んだのか。
「ずっと貴方を探してた! 入学式でね、檀上に立った時に貴方の顔を見たんだ! 貴方の目って、とっても不思議だよね。だから、すっごく興味を持っちゃったんだ! その目ってどうなってるの? どうして片目だけ黄色いの? ずっと気になってて! 俺ラッキーだね! こうやって会えるなんて!」
彼は、マシンガンのように言葉を発し続ける。僕に話す隙すら与えない。
(この目がおかしいって思ってる……!?)
この目は、本来ならば違和感なく受け入れて貰えるはずなのだ。だから、今の今まで誰からも指摘されなかった。
「貴方みたいな綺麗な黒髪を持っている人はいないからね! 伏せていても、すぐに貴方だって分かった! これはきっと運命だね! お願い、聞かせて! その目のこと! こんな珍しい目を見るのは初めてなんだ!」
彼は宝石のように目を輝かせる。発言に悪気がないことは、よく分かった。しかし、僕はその言葉に深く傷付き、恐怖を覚えていた。
リアムは、まるで純粋な子供のようだった。無垢なるナイフを、僕に突き立てる。その痛みで、いつの間にか眠気も覚めていた。