奇天烈な人は急に現れる
―街 朝―
朝食を終えて、僕らは街へと出歩いていた。朝ではあるが、街は賑やかだった。
朝食は、アルモニアさんが用意してくれていた。しかも、二人分。彼女の姿はそこにはなかったが、気配を感じた。僕らの邪魔をしないようにという気遣いか、徹底して監視者としての務めを果たすことにしたのか――どちらにしても、昨日の今日で別人だった。
「賑やかな街だ」
「うん、そうだね。今日は、色んな所でイベントがあるから余計に賑やかみたい」
「イベント? 今日は、何か特別な日なのかい?」
「違うよ。ただ、たまたま重なってるみたい。人が多いのは嫌だった?」
アリアは、申し訳なさそうに僕を見つめる。
「そんなことはないよ。ただ、こんなに賑やかな朝ってあるんだなって思っただけさ」
「人が多い方が、私的にはいいから……」
そう言うと、彼女は悲しそうに俯いた。僕は、何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「アリア?」
様子を伺う為、顔を覗き込んだその瞬間――背後から、躊躇なく誰かが勢いよく迫ってきているのを感じ取った。ただ事ではない、そう本能が囁いた。
「ふんっ!」
何かを振り下ろそうと漏れる男性の声。危害が加えられるのは、間違いないと確信した。僕は身を翻し、剣を取り出しその何かを受けとめた。
「何ですかっ!?」
「俺の勘は当たった!」
「はぁ!?」
目の前にいるのは、少し堅苦しい服に身を包んだ暑苦しそうな男性だった。その表情に敵意などまるでなく、むしろ好意すら感じられた。しかも、持っている剣は紛い物だった。
「ど、どうしたんですか!? 何事ですか!?」
アリアは、どうしたのかと慌てふためいていている。
「知らないよ、この人が急に斬りかかってきたんだ!」
満面の笑みを浮かべ、紛い物の剣で力のままに僕に押しかかる。名前も知らないこの人が、何を考えているのかさっぱり分からず、恐怖すら覚えた。
「なぁ、お前……俺達の劇に出てくれ! 体格と雰囲気がぴったりでよ。しかも、アクションも出来るときた。こりゃ、神のお導きがあったとしか思えねぇ! 頼む、困ってんだよ。出てくれ!」
彼は剣を放り投げると、すぐさま地面に頭をついてそう懇願した。
「や、やめて……やめて下さいよっ!」
周囲の奇異なものを見るような視線が、僕に厳しく突き刺さる。このままでは、野次馬が出来てしまうのも時間の問題だろう。
(訳が分からないが、このままでは僕が恥ずかしいっ! 絶対にこの人は、面倒臭い人だ。赤の他人に斬りかかってきて、神の導きだからと劇に出ろなんて言ってくるような人だ……くそっ! あぁ、もう!)
「アリア、ごめん! はぁ……分かりましたよ。だから、その格好はやめて下さい」
「本当かっ! 話分かるなぁ! そうとなりゃ、早速行くぜ! おっしゃ!」
兎のように彼は飛び上がって、僕の腕を掴んだ。
「えっ!?」
「行くぜ!」
そして、そのまま何の躊躇いもなく――彼は、駆け出した。
「ま、待って下さい! 私を置いていかないでっ!」
あまりにも唐突な出来事。それを理解する間もなく、僕は連行されたのだった。




