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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十六章 黒猫はいずこ
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奇天烈な人は急に現れる

―街 朝―

 朝食を終えて、僕らは街へと出歩いていた。朝ではあるが、街は賑やかだった。

 朝食は、アルモニアさんが用意してくれていた。しかも、二人分。彼女の姿はそこにはなかったが、気配を感じた。僕らの邪魔をしないようにという気遣いか、徹底して監視者としての務めを果たすことにしたのか――どちらにしても、昨日の今日で別人だった。


「賑やかな街だ」

「うん、そうだね。今日は、色んな所でイベントがあるから余計に賑やかみたい」

「イベント? 今日は、何か特別な日なのかい?」

「違うよ。ただ、たまたま重なってるみたい。人が多いのは嫌だった?」


 アリアは、申し訳なさそうに僕を見つめる。


「そんなことはないよ。ただ、こんなに賑やかな朝ってあるんだなって思っただけさ」

「人が多い方が、私的にはいいから……」


 そう言うと、彼女は悲しそうに俯いた。僕は、何かまずいことを言ってしまったのだろうか。


「アリア?」


 様子を伺う為、顔を覗き込んだその瞬間――背後から、躊躇なく誰かが勢いよく迫ってきているのを感じ取った。ただ事ではない、そう本能が囁いた。


「ふんっ!」


 何かを振り下ろそうと漏れる男性の声。危害が加えられるのは、間違いないと確信した。僕は身を翻し、剣を取り出しその何かを受けとめた。


「何ですかっ!?」

「俺の勘は当たった!」

「はぁ!?」


 目の前にいるのは、少し堅苦しい服に身を包んだ暑苦しそうな男性だった。その表情に敵意などまるでなく、むしろ好意すら感じられた。しかも、持っている剣は紛い物だった。


「ど、どうしたんですか!? 何事ですか!?」


 アリアは、どうしたのかと慌てふためいていている。


「知らないよ、この人が急に斬りかかってきたんだ!」


 満面の笑みを浮かべ、紛い物の剣で力のままに僕に押しかかる。名前も知らないこの人が、何を考えているのかさっぱり分からず、恐怖すら覚えた。


「なぁ、お前……俺達の劇に出てくれ! 体格と雰囲気がぴったりでよ。しかも、アクションも出来るときた。こりゃ、神のお導きがあったとしか思えねぇ! 頼む、困ってんだよ。出てくれ!」


 彼は剣を放り投げると、すぐさま地面に頭をついてそう懇願した。


「や、やめて……やめて下さいよっ!」


 周囲の奇異なものを見るような視線が、僕に厳しく突き刺さる。このままでは、野次馬が出来てしまうのも時間の問題だろう。


(訳が分からないが、このままでは僕が恥ずかしいっ! 絶対にこの人は、面倒臭い人だ。赤の他人に斬りかかってきて、神の導きだからと劇に出ろなんて言ってくるような人だ……くそっ! あぁ、もう!)


「アリア、ごめん! はぁ……分かりましたよ。だから、その格好はやめて下さい」

「本当かっ! 話分かるなぁ! そうとなりゃ、早速行くぜ! おっしゃ!」


 兎のように彼は飛び上がって、僕の腕を掴んだ。


「えっ!?」

「行くぜ!」


 そして、そのまま何の躊躇いもなく――彼は、駆け出した。


「ま、待って下さい! 私を置いていかないでっ!」


 あまりにも唐突な出来事。それを理解する間もなく、僕は連行されたのだった。

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