おまけでいいから
―自室 朝―
龍と出会ったというのが嘘のように、僕はいつも通りに目覚めた。
「もう朝か……」
学校が始まるという連絡はない。いわゆる、二度寝というものに挑戦出来るチャンスではあった。けれど、僕は急いでやらねばならぬことは沢山ある。
僕は眠い目をこすりながら、ベットから降りて部屋を出る。
(そういえば、アリアはもう起きているだろうか? というか、どこで寝たんだろう? 多分、一階なのかな? 匂いを辿ればすぐに分かるけど……変態みたいで嫌だな。一応、アルモニアさんを探した方が……)
色々考えながら歩いていると、突然、何者かに肩に手をかけられた。
「うえっ!?」
気配も何も感じさせず、ここまで距離を詰められるなんて不覚だった。ここにいる人物なんて、限られている。あの僕を完全に舐め上げているアルモニアさんか、アリアか――どちらであるのかを確認しようと振り返った。すると、そこには引きつった笑みを浮かべるアリアがいた。
「ご、ごめん。びっくりさせちゃって……その、気付いて貰おうと思って。存在感ないから、私……」
「え? あ、いや……僕の方こそ、気付かなくてごめん。どこにいたの?」
「部屋の前で待ってた……アルモニアさんに、そこにいるって聞いたから」
「部屋の前にいたのか? 色々考え事をしてたから、そのせいで気付けなかったんだと思う。それより、よく眠れた?」
まさか、目の前を一切気付かずに通り過ぎてしまうなんて。匂いや気配を全く感じなかった。とんでもない女性だ、彼女は。内心かなり衝撃を受けながらも、僕は話を逸らす。
「う、うん。まさか、眠っちゃうなんて。ここのベット、すっごくふかふかで気持ち良かったよ。永遠に眠れちゃいそうだったもん」
「ハハ、それは良かったよ」
「そ、それでね! 巽!」
すると、彼女は手を強く握り締め、意を決したように言葉を発する。
「一緒に、私と……街に行かない!? ほ、ほら学校もまだ始まらないし! 折角だから、その……巽と遊びたいなぁって! あ……でも忙しかったらいいの。巽は、色々あるだろうし。昨日、私のわがままには付き合って貰ったから。だけど、もう一日だけおまけでって……思って……」
最初こそ語気が強かったものの、次第に自信を失ったように萎んでいく彼女の声。
(遊びにか。僕は黒猫を探したい。でも……彼女には恩がある。それは、一朝一夕で返せるようなもんじゃない。それに、街のことを知れるのはいいことだ。結果的に、黒猫を探す効率も良くなるだろう。僕は、あまり詳しくないし……うん、決めた)
「僕なんかで良ければ付き合うよ。ちょうど、街を見て回りたいと思っていたんだ。色々、教えて欲しいな。でも、朝御飯は食べて行こう」
彼女の表情が、瞬く間に明るくなっていった。
「う、うん! 行こう!」
そして、僕らは朝御飯を食べてから街へと向かうことになったのだった。




