僕の中にある以上
―レイヴンの森 夜―
(アリアの前では言えないような、僕の秘密を知っている……? まさか!)
僕には、まだ秘密がある。でも、その秘密の為にアリアに嘘をついた覚えはない。それに、わざわざ伝えるようなことでもない。
もしも、それについて彼女から直接聞かれるようなことがあったら、答えなければならないとは思うが。
「お前の中には、龍の一部の力が宿っている。俺達の兄弟の中で、最も未熟であった……享楽の龍の力が一番強いかな。他にも気配を感じるが、入り混じっててよく分からんな」
僕の中にいる彼は、享楽の龍としての力が最も強いという。他の龍とも合わさった存在であることは、知らなかった。そもそも、今まで彼が中にいることを明かしたことがないのに、一瞬の内に見抜かれてしまうとは。
「分かるんですね」
「分かるとも。同胞の力を宿した存在を、見抜けぬ訳がねぇって。にしても、驚いた。まさか、独立した存在が自我と知識を持つようになるとは。でも、残念ながら当人は眠っているようだ」
「……僕のせいだと思います。ある時、鎖に縛られ苦しみながら訴える彼の姿を見たんです。その鎖を断ち切るのは、僕以外にいないと。それ以降、彼の姿を見ていません。声も聞いていません。でも、無事ではあるんですね。良かったです」
「良かった、か。でも、お前は振り回されてきたんじゃねぇのか どうして、そんなことを言える?」
彼の言うように、振り回されてきたのは事実だ。食事が楽しめなくなったこともあった。力を抑えきれなくなったこともあった。体が人の姿でなくなることもある。彼の意識に操られることもある。普段、僕が抑え込んでいる黒い欲望が歯止めなく溢れてしまうこともある。
けれど、幼い頃からずっと彼と一緒にいる。彼は、きっとこの世界の誰よりも僕を理解している。どんな時だって、常に彼が僕と共にいたのだから。もう、僕にとっては一つの心の拠り所になってしまっている。
「確かに困ったことも沢山ありました。けれど、彼のお陰で助かったことだってあります。悪いことばかりじゃないですし、どうせ死ぬまで一緒なんです。折角なら、良い形で彼と共存していきたいんです。彼の力も使いこなせるなら使いたいんです」
「ハハ、なるほどねぇ。人の力を超えた存在だから、それを上手く飼い慣らしたいってか」
「でも、僕にはそれが出来ません。どうしても、彼の力に負けてしまうんです」
彼との意思疎通がまともに出来るようになってから、僕はゴンザレスと共に彼の力のコントロールを行えるようにと鍛錬を重ねてきた。けれど、一度たりとも成功したことはない。
「そりゃそうだ。そもそも、お前が普段自我を持って生きてるって時点でヤベェもん。普通なら、あっという間に飲み込まれてるぜ。器をオーバーしてんだもん、力がよ。だから、もう少し自分に自信持っていいと思うけどねぇ。でも、納得いかねぇんだろ?」
「駄目なんです。こんなことでは。自分の中にある以上、それがどんな力であってもコントロールしなければ。王として……それは、当然のことなんです」
僕は、もっと強くならなくてはならない。王である僕が、普通であってはならないのだ。それがどんなに強大でも、凶悪であっても僕のものにする。僕の中に入れた以上、それは紛れもなく僕の力なのだから。
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