龍の知る秘密
―レイヴンの森 夜―
もしかしたらと、絞り出したジェシー教授の名前。タレンタム・マギア大学に勤めていた人だ。思い当たる人物の名を出したのだが、龍は頷かずただ黙っているだけで静かな時が流れていく。
「あ、あの……違いましたか?」
この短期間に二度も、気まずさを体感することになるなんて。会話が途切れてしまう沈黙、形容し難い感情が僕を支配していく。
でも、これは僕だけが悪い訳ではないような気がする。正解なら正解と、不正解なら不正解だとはっきり言って欲しい。答えるように促してきたのは、目の前にいる……彼? なのだから。
「あのぉ――」
「大・正・解っ!」
「ぎゃぁ!?」
突然、龍は大声を出して尻尾で一度地面を叩き鳴らした。その衝撃で地面が大きく揺れ、僕はその場に崩れ落ち尻餅をついた。
「一発正解とは大したもんだな! 流石だぜ。やっぱり、この俺の凄さはどんな姿になっても隠し切れねぇもんな。ウヘヘ……」
すると、龍は強面な表情をぐにゃりと歪ませ、気持ちの悪い笑顔を浮かべた。
(えぇ……龍って笑うとこんな風になるのか?)
「ほ、本当にジェシー教授なんですか?」
「マジだって。元々、俺は龍だったんだよね~。何やかんやあって龍の姿を捨てざるをえなくてさぁ。でも……あの騒動で、くそみたいなやり方でこの姿を取り戻したんだ」
寒気すら覚える笑顔から一転、険しい表情になる。
「くそみたいな? それは……」
「あぁ。お前もご存知、アーリヤの件だよ。お前も知ってんだろ。あの騒動で、選抜者達とその指導者が死んだことになってる。確かに、選抜者はお前とリアムを除いて全滅。だが、その指導者は、俺は……こうやって生きてる訳さ。そいつらの犠牲を踏み台に、ちゃっかりと龍の姿を取り戻して」
「……その、ごめんなさい」
僕も、その死に関わってしまった。本来、僕はアーリヤの陣営ではなく選抜者の陣営にいるべきだったのに。最悪の結末を、歩ませてしまった。謝罪してもし足りない。こんな結末を変えられたはずなのに。
「確かにお前も加害者だ。だが、その前に被害者でもある。元々、アーリヤを現代までのさばらせてしまったのは俺の責任だ。俺に太平の龍としての自覚がなかったから。少しでも自覚のある行動が出来ていれば、防げていた出来事だ。そのことで、お前を責めたりするはずもない。俺に謝罪は不要だ。って、こんな話をする為にお前を強制的にここまで連れてきた訳じゃねぇんだよ」
(そういう感じに持っていったのは、ジェシー教授の方だったんだけど……まぁいいか)
「僕に用があるんですか?」
「おうよ。この森に来た瞬間に、歓迎してやろうかと思ったんだが……アリアの邪魔しちゃ悪いと思ってな。ロマンチックな光景が終わるまで、とりあえず待ってたっていう次第だよ。微笑ましい限りだったな、マジで」
「み、見てたんですか!?」
二人っきりだと思っていたから、話せていた内容だ。多分、話しながら僕は相当にやけていただろうし。
(いや、見られているだけならまだいい。もしも、聞かれていたとしたら……)
「見てたし、聞いてた。暇だし」
「そ、んな……」
いくら龍とはいえ、僕の秘密を知られてしまうだなんて――あくまで、僕はアリアにだけ明かしたつもりだったのに。
「そんなに落ち込むなよ。だって、俺知ってたし。お前が宝生 巽って名前で、武蔵国っていう王であることは」
「はぁ!? 知ってたんですか!?」
「うん、本当は学長よりも上の立場だったんだぜ。そりゃ知ってるよ。だから、隠さなくてもOKってこと。で、俺はもう一つお前の秘密を知ってる。アリアの前では、言えないことだ。そういう訳で、お前だけを連れてきた。さ、そろそろ本題に入ろうか」




